深夜帯での放送ながら「ありそうでなかった新感覚のホームドラマ」として、大きな反響を呼び、シーズン1、さらにシーズン2の放送、そしてこのたびの映画化と、今、最も注目を集めている『おいハンサム!!』の魅力に迫ります。


「有害性のない頑固おやじ」という発明

 家ではステテコに腹巻き姿の頑固おやじに、夫を立てつつ一家を仕切る専業主婦の母、そして娘たち。2022年のシーズン1放送開始当時、登場人物の設定だけを知った段階でちょっと心配してしまった。これ、伝統的家族観(伝統とかいって突き詰めればせいぜい明治~昭和のモデルに過ぎないのだけど)を強固なものにするための保守的なドラマかな? と。でも、まったく違いました!! とにかく安心して観られるホームドラマです!

 まず、主人公の伊藤源太郎(吉田鋼太郎)の男らしさにまったく有害性がない! だいたいこういうキャラは時代遅れのステレオタイプな価値観を持っている存在として描かれがちだけど、会社でも家でも有害性を見せないんです。

 ちょっと強引なところもあるけど、それは役職を全うし、リーダーシップを発揮するため。「男はこう振る舞うべき」という謎の行動規範を示したり、男性優位の意識で部下や家族を見下すような態度を取ったりしないんです(というか、めちゃめちゃ愛している!)。むしろ本作は、従来は美徳として許容されていただろう有害な男らしさをきっちり批判し、それに代わる理想的な人間性を再構築しているようにすら感じます。

 男性は自身の男性性が脅かされたと感じるとそれを取り戻そうと有害な行動に走りやすいというけど、源太郎はそのようなことは一切せず、主体性を持って行動し、自信に満ち溢れている。ゆえにタイトル通り「ハンサム」(品格があって礼儀正しく、相手の立場を尊重できる人のこと。性別問わず!)なんです。

 オヤジ世代の主人公が時代に合わせて成長する内容でもない。最初からアプデされている状態なの、嬉しくないですか? 「こんなこと言ったらハラスメントになっちゃうか」とかギャグっぽく言ったりしないんですよ? わざわざ加害が描かれることもなく、ストレスなく観られるというのは何より大事。だからこそ、配信で何度も見返せるんです(おもしろすぎて何周したことか)!

2024.06.21(金)
文=綿貫大介