「ええ……」次郎丸くんの顔が歪む。
「しかもそれがたまたま編成局長とかエラい人たちが見に来てる収録だったんだ」
「幸良さん」
次郎丸くんが歪んだ顔をぷるぷる震わせながらも、真顔をキープしつつ、
「“ドジ”とか“不器用”って、社会人歴十年超えてる大人が自分に対して使っていい語彙じゃないですよね。窃盗を万引きって言ったり売春をパパ活って言ったりするのと同じで、“仕事できない”を可愛く言い換えてるだけです。そういう逃げの語彙使って“私ドジだから”的な言い方でセルフハンディキャッピングしてごまかし続けてたら、いつか取り返しのつかない大失敗を引き起こしますよ」
淡々と嚙まずに言い切られた長尺の正論が私の自尊心を貫く。
「次郎丸くん。一応確認しとくんだけど」
「はい」
「君は私の部下だよね。七歳年下の」
「僕は制作会社の人間なんで厳密には取引先ですけど、同じ番組のチームという意味でなら部下ですね」
「年上の上司に正論を言うときは、絶対に芯を食い過ぎちゃいけないんだよ。立ち直れなくなっちゃうから」
本当に刺さってしまって、腰に力が入らない。今にもこの場に寝転がってしまいそうだった。
「まあいまのは冗談ということで」
「冗談じゃ済まされないくらいには真芯を捉えてたよ」
「幸良さんはドジで不器用だし現場の仕切りも甘いことが多いけど、テレビが好きな気持ちは誰にも負けないでしょう。だからこそ企画も強いし」
次郎丸くんは私から目を逸らさずまっすぐと、
「無限に湧いてくるトラブルとハプニングを飼い慣らしてこそ、テレビマンでしょ。この遅刻も鮮やかに解決して数字も取って、上の人たちを見返してやりましょうよ」
「爽やかに難しいこと言うけど……」
勇崎さん不在のセットを想像して、身体が熱くなってくる。嫌な汗が脇とか背中を伝う。
「それより、さっさと緊急の制作打ちやった方がいいんじゃないですか? 勇崎さんのパートどうするか決めて全体に指示してあげないと。副調整室も混乱してるだろうし、ちゃんと連携しとかないと事故りますよ」
2024.07.07(日)