「遅刻はしゃーないけど、構成はなんとか上手く元の通りにつなげてくれよ。俺と局のメンがかかってる」

 その言葉に、私の胃はパティシエが握る生クリームチューブのようにきゅるきゅるに絞られた。口から生クリームを噴出しなかっただけよく耐えた方だ。

「も、もちろん勇崎さんなしでも数字が取れるように全力を尽くしますよ」

「あれ、聞こえなかった? 上手く元の通りにつなげてくれ(・・・・・・・・・・・・・・)って言ったんだ。数字ももちろん重要だが、それ以上に今回は例のくだり(・・・・・)を放送することが何より重要だからさ」

「勇崎さんが間に合えば、もちろん」

「間に合わなかったときにどうするかまで考えるのがお前の仕事だろ、統括プロデューサー」

 この短い、三分にも満たないやりとりで自分の心がずしりと重くなったことに私は絶望した。さっきまで次郎丸くんと喋ってたときは、ピンチながらもなんとか頑張ろうという気になれたけど、今はもう何か台風とかとんでもない大事件とかが起きて番組が臨時ニュースに切り替わるような、そんな奇跡が起きるのを祈るモードに入ってしまいそうだった。番組を任される人間として失格の思考だ。だけど、勇崎さんが来てないのにどうやって勇崎さんがいる前提の構成をやれというのだろう。仮にもテレビ局で編成局長張ってる人間なら、それが無茶な要求であることくらい分かるだろうに。

 理不尽な圧力を受けたとき、私の感情の割合は怒りや反発より恐れとか不安とか憂鬱が勝つ。その弱さが嫌いだった。何度も「この業界に向いてない」と言われる要因だった。

「幸良さん、ちょっと確認お願いします!」

 何とかして山田さんとの会話を打ち切りたいという私の願いを聞き届けたかのように、次郎丸くんが私を呼んでくれた。私は軽く山田さんに会釈すると、そのままここには戻らないという意思表示も込めてノートPCを手に取り、次郎丸くんを中心にADの子たちが集まっているところへと早足で向かった。向かおうとした。視界が縦に半回転した。

2024.07.07(日)