「ちょっと、笑ってないで助け起こしてくれたらよくない?」抗議しつつも、私に気を取らせてる場合じゃないと思い、真面目なトーンに切り替えて言う。「OオンAエア三十分前だよ、仕事して!」

 スタッフたちがにやつきながらそれぞれの作業に戻る中、次郎丸くんが遠慮なく爆笑しながら駆け寄ってきた。

「ちょっと芸術的すぎますって。ドジピタゴラスイッチじゃないですか。大丈夫ですか」

 私はふらふらと立ち上がりつつ、所感を述べた。

「芸人さんのリアクションって、マジなんだね」

「PCぶん投げてましたよ」

 次郎丸くんが指差す方を見ると、下手側の端の壁際に設営された簡易楽屋の前まで投げ飛ばされた、哀れなノートPCが見えた。電流と衝撃の二種類のダメージを受けたことになる。私の思考は電流を切り忘れていたADへの嘆きから、さっきまで書いていた台本データが生存しているかの不安へと一気に切り替わった。

「生きててくれ頼む」

 あわあわと走ってPCを拾おうとする私に、次郎丸くんが「また転びますよ!」と忠告を投げてきた。失礼な、流石さすがにもう大丈夫だから、と言い返すより早く、電流によって若干けいれん気味だった足は、壁際のPCまであと二歩という地点で見事にもつれた。思わず壁と、壁際に置かれていたでかい段ボールで身体を支えた。

 誓ってもいいが、私はちゃんとすぐ壁にも手をついて体重を分散させた。箱が倒れるような力はかけていない。ここまでドジを重ねてきたけど、もうこれ以上はさすがにお腹いっぱいだ。

 だけど結果として箱は倒れた。一人暮らし用の冷蔵庫くらいは入りそうな箱だったので、鈍いながらもけっこうな大音量がスタジオに響いた。

「マジでどんだけ罪を重ねるんですか」

 次郎丸くんが手をとって起き上がらせてくれる。

「うっ、ドジが罪だという前提の発言……てかこれ何? 壊れ物じゃないよね?」

 箱には特に何の記載もなかった。昨日私が小道具を確認しにきたときにはなかった気がする。美術関係の箱だったらまずいかも、と思いつつ、私は中をあらためようとフタにあたる面のガムテープを慎重にはがして開いた。

2024.07.07(日)