「なんでそんな容赦なく酷いことを淡々と言えるの」
「プロデューサーとしての幸良さんを信頼してるからですよ」
「私が担当する番組、深夜で始まった時はいいけど編成変わって時間帯が少しでも上がったら急に失速して終わるって言われてるんだけど」
番組死神とかいうひどくて語呂の悪いあだ名までつけられている。
「それでも記憶に残る番組ばかりです」
次郎丸くんはトーンを変えずに、
「僕は幸良Pの作る番組好きです。信頼できる作り手だと思ってます」
「次郎丸くんは信頼してくれてても、会社は信頼してくれてないんだよね」
「信頼してくれてるから、ゴールデンの二時間特番を任されてるんでしょ。三十五歳でゴールデン特番やれるのは期待されてる証拠じゃないですか」
「もう周りから色々言われまくりだよ、局長と寝たのかとかどうやって脅したんだとかいよいよテレビの時代も本当に終焉かとか。寝てないし脅してないし、なによりテレビの時代はまだ終わってないから!」
「酷いですねぇ」
「そもそも私、ゴールデンなんてやりたくないってずっと言ってたんだよ。ずっと深夜でがっつりお笑いの番組やりたいって言い続けてたし。だけど編成局長の山田さんがなぜか私を指名してきたの」
「指名で仕事もらえるなんて、プロデューサー冥利に尽きるじゃないですか」
「絶対、扱いやすいからだよ」私は断言した。「これが大御所の佐藤さんとか高橋さんとかだったら色々立場もあるし他の番組も任せてるから自分の意見をごり押ししづらいけど、三十代の女プロデューサー相手ならやりたい放題指示できるって思ってるんだよ。現にえぐい注文来まくったし」
本当にえぐい注文が来て、台本直したり急遽撮ったVTRの編集チェックしたり、この二週間は片手で数えられるくらいしか家に帰ってない。今時ADすら帰れ帰れ休め休め働くな働くなと言われるご時世なのに。
「でも、さすがに扱いやすいってだけで選ばれてはないでしょ。特番失敗したら山田さんだって困るわけだし。しかも記念すべき初の生放送回、ちゃんと回せるプロデューサーを立てたかったんだと思いますよ」
2024.07.07(日)