尖った顔立ちも引き締まった身体つきもどこか野性味を帯びているが、不思議と粗暴な雰囲気はなかった。
……しかし、明らかに普通でもなかった。
「あ、あなたこそ、何?」
問いかける奈緒の声には、警戒心よりも戸惑いのほうが強く出ている。
なにしろ、青年の左肩には、真っ黒なカラスが忠実な家来のごとく乗っているのだ。
不愛想な顔でじろじろと不躾に睨んでくる青年と違い、そちらは動きもせず、深い闇のような瞳でじっと奈緒を見つめている。
その喉元には、三日月のような形の赤い模様があった。
そしてそのカラスだけではなく、青年はその背中にも、物騒なものを携えていた。
日本刀である。
黒鞘の刀を、彼はまるで荷物でも背負うように平然と、紐で括りつけているのだった。
明治九年に廃刀令が布告され、武士という身分もなくなった今のこの日本で、二十そこそこの若者が堂々と刀を持っているなど、どう考えても異様だ。
「俺の質問に答えな。なんの目的でこの森に入った?」
青年は奈緒の混乱には頓着せず、それこそばっさりと切って捨てるような言い方で返答を要求した。拒むことも逃げることも許さないという、苛烈で不遜な、上からの態度だった。
ここでむくむくと、奈緒の内部に腹立ちが湧き上がってきた。
「あなたにそんなことを説明する義務はないと思うけど」
奈緒が真っ向から言い返してきたのが意外だったのか、青年は少し目を見開いた。
「勝手に入ってきたやつが何を偉そうに……ここは、おまえのようなお嬢さんが遊びにくるところじゃない。さっさと出ていけ」
「遊びでこんなところに来るわけないじゃないの」
「だから理由を言えと言ってるんだ。明らかに胡散臭いやつに誰何をすることの、何が問題だ?」
「刀を持って、カラスを肩に乗せている人よりは胡散臭くないわよ。誰が好きこのんでこんなところに来ようと思うもんですか。のっぴきならない事情があるに決まってるでしょう」
冷静な判断力があれば、日本刀を背負った相手にこんな強気に出るのはまずいのではないかという考えも浮かんだだろうが、そんなものはすでに奈緒の頭からすっかり吹き飛んでしまっていた。異常事態ばかりが続いて、少々やけくそ気味になっていたのかもしれない。
2024.05.18(土)