「小説家になろう」からデビューし、様々な人気作品を手がける著者・雨咲はなさんによる『暁からすの嫁さがし』。妖魔がはびこる明治東京を舞台に、しっかり者の令嬢・奈緒と、不思議な一族の血を引く青年・当真が、帝都を脅かす「妖魔」がらみの事件に挑みます。

 
 
 
 

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 奈緒と当真、二人の出会いと最初の事件が描かれます。
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 ──耳を澄ませよ人の子よ、この声聞こえる者あらば、あやしの森へと来るがいい。

奈緒(なお)さん、どうかして?」

 問いかけられた声にはっとして、深山(みやま)奈緒は上空に向けていた視線を、自分のすぐ隣へと戻した。

 友人の実川雪乃(さねかわゆきの)が首を傾げ、こちらを覗き込んでいる。

 その切れ長の目には、急に黙り込んで空を見上げた友人に対する、純粋な心配が浮かんでいた。それを素早く見て取って、奈緒は努めて明るい微笑を浮かべた。

「あ、ごめんなさい。少しぼうっとしちゃって」

「お疲れなのではない? 転居していらして、まだそう日が経っていないのだもの」

 雪乃がおっとりと微笑みながら気遣うように言った。矢絣の着物に袴という服装は同じだが、人から「しゃんとしている」と評されることの多い奈緒と違い、彼女の言動にはいかにも良家の子女らしい淑やかさと慎ましさがある。

 雪乃は奈緒が東京に越してきてから、最初にできた友人だ。

 大きな病院の娘ということだが、雪乃自身はまるで驕ったところのない、控えめで優しい性格をしていた。

「いえ、そんなことはないのよ。新しい女学校はどんなところかとちょっぴり不安もあったけど、雪乃さんが何かと教えてくれるから、とても心強いわ」

 奈緒は生まれも育ちも横浜で、東京のことはとんと勝手が判らない。その奈緒のために、なにくれとなく世話を焼いてくれたのが、こちらで新たに通うことになった女学校の同級生である雪乃だった。

2024.05.18(土)