それが完全になくなった後で、青年が刀を引き抜いて持ち上げる。

 輝く白刃は、はっきりと黒く染まっていた。

 それと同時に、がくっと雪乃の全身から力が抜けた。慌てて支えたが、どうやら気を失ったらしい。

「ど……どうなったの?」

 呆気にとられて奈緒が問いかけた時には、青年はもうすでに黒くなった刀身を鞘に収めてしまっていた。静寂の戻ったその場に、チン、という音が響く。

「ようやった、嫁! いや、ナオだな! ナオの呼びかけで、あのムスメの心が自力で妖魔を追い出したのだ! 妖魔はトーマの刀に吸収された! もう大丈夫だ!」

「吸収……」

 理解はできないが、カラスのその言葉に安心して、奈緒は雪乃を抱えたままその場にしゃがみ込んだ。今になって緊張が解け、一気に疲労感が押し寄せる。

 雪乃が無事なら、妖魔が吸収されようが、封じられようが、どうだっていい。

「ウム、さすがトーマの伴侶たるオナゴだの! ワシはアカツキだ、これからもよろしく頼むぞ、ナオ!」

 ちっともよろしくしたくないので奈緒はそれに返事をしなかったが、上機嫌のカラスはせっつくように青年の肩を嘴で突っついた。

 眉を寄せた青年がカラスを見てから奈緒に目をやり、仕方ない、というようにため息をつく。

「……暁月当真(ぎようげつとうま)

 いかにも渋々という感じで素っ気なく名乗った。

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2024.05.18(土)