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灯台は、海と人、過去と現在の境に立つ標
外にどうぞ、と導かれて、レンズ室から回廊に出る。ちょこんと丸く黒いものが、手すり部分にくっついている。「これは何ですか?」と、つい身を乗り出して覗き込んでしまった。
「あっ、それはライブカメラです。例えば高知灯台を管轄する第五管区ならば、大阪灯台や潮岬灯台など、合計六ヶ所にライブカメラが設置されており、海の安全をリアルタイムで配信しています」
「待ってください。じゃあもしかしたら今、配信を見ていらした方がいれば、わたしの顔が大写しになってしまったかもしれないんですか」
「はい、もしかしたら」
苦笑いする奥山さんに平謝りする間にも、陽射しは容赦なく照り付ける。
今は空と海は疎ましいほどに明るく、眩い。しかし遮るものの一つとてない遥かなる海は、一旦日が傾けば、そして嵐が訪れれば、水面を渡る船に歯を剥いて襲いかかるだろう。
人の世はたやすく変わる。
かつて職員が灯台守として常駐していた灯台は、今日ではすべて自動制御化され、人の住まう灯台はもはや存在しない。一方でGPSやレーダーの発達に伴い、船が灯台に頼らずとも自船の位置を把握することも容易となった。
しかしそれでも海は変わらぬ広さで在り続けるし、船上の人々が陸を恋う心に変わりはありはしない。むしろ世の中が目まぐるしく変化する世であればこそなお、今も昔も変わらず存在する灯台は、海と人、過去と現在の境に立つ標なのだ。
2024.01.25(木)
文=澤田瞳子
写真=橋本 篤
出典=「オール讀物」2024年1月号