アメリカから日本への提言は無意味?
オンラインで私自身に向けられたWhataboutismもありました。例えば、コロナ禍で、私はアメリカから日本に向けて、コロナワクチンの重要性や安全性について発信し、日本のコロナ対策に対して助言をし、多くの方の健康に貢献できたと信じています。しかし、中には「そういうアメリカはどうなのよ?」と「コロナ対策で大失敗しているアメリカからの、コロナの医療情報発信は無意味である」という意見にも頻繁に遭遇しました。
実際アメリカのコロナの感染状況は最悪でした。「コロナは存在しない」という誤情報に加えて、感染予防効果が立証されているマスクに関しては、「政府の指示で口を塞がれてたまるか」と言論の自由をめぐる問題にすり替え、堂々とマスクを拒否する人も多かったですし、このような政治的な分断が科学情報の解釈にまで影響し、ワクチン接種率などの数字にも如実に現れてしまいました。
私の住むマサチューセッツ州の街は1回目のワクチン接種率が99%なのに対して、中西部や南部の州では3割にも満たない街もあるのです。ワクチンを開発した国でありながら、非接種者の多さと感染対策を無視する行動によって、アメリカは世界一のコロナ死者数を出した国になってしまいました。
しかし、このようなアメリカのコロナの状況の悲惨さが私が解説する科学情報の正誤を変えるのでしょうか? 私が日本に住んでいても、アメリカに住んでいても、発信を届ける対象がアメリカに住むアメリカ人であっても日本に住む日本人であっても、解説するコロナウイルスやワクチンに関する科学論文の内容は変わらないのです。
同じように、ジェンダー問題に関する発信に関しても「そういうアメリカはどうなのよ?」と、「アメリカの方が日本よりも性犯罪が多い」から、「アメリカに住む日本人医師が指摘する日本のジェンダー問題の考察には耳を傾ける必要がない」というコメントを受けることがあります。
2024.01.12(金)
著者=内田 舞