デビューしてから、いろいろなことがあった。思いがけない喜びがある一方で、辛い哀しみもあった。どちらが多かったか、と訊かれてもどう答えていいかわからないが、ひとつ言えるのは、私は人に恵まれている、ということだ。

 編集者のみなさんは、飴と鞭を上手に使い、筆が進まない私を引っ張ってくれた。なにかしらで落ち込んでいると、励まして元気をつけてくれた。

 取材でお会いした方々もそうだ。なにも知らない私に親切に教えてくださり、つまらない質問にも丁寧に答えてくれた。原稿のチェックを引き受けてくださった方もいる。その方々なくして、私の作品は成り立たない。

 それは、装丁に関しても言える。私は、カバーのイラストやデザインは、すべて担当編集者にお任せしている。

 今回、カバーにGLAYのTERUさんの絵を勧めてくれたのは、あとがきの冒頭に出てくる担当編集者Tさんだ。Tさんは私がデビューした当初からのお付き合いで、いままでにも何冊か一緒に作っている。いつもその作品に合いそうなタッチのイラストを何点かあげて「柚月さんはどれがいいですか」と訊ねるのだが、今回は違った。他の候補はなく「TERUさんの絵をカバーにしたい」ときっぱりと言ってきた。

 Tさんが見せてくれたTERUさんの絵は、青が印象的なものだった。透明で、儚げで、淋し気で、でも力強い。私は観た瞬間、強く引きつけられて「TERUさんにお願いしましょう」と即答した。

 TERUさんに連絡をとったあと、私もTさんも気が気ではなかった。お願いしても、使用許可が出るかわからなかったからだ。祈るような思いで返事を待っていたが、TERUさんからの回答は「OK」だった。

 ふたりで喜んでいると、さらに嬉しいご連絡があった。原稿を読んだTERUさんが、絵を描きおろしてくださったのだ。私が目を奪われた青で、優しくも凜とした花は、私の拙いエッセイに美しい彩りを与えてくれた。多忙ななか、絵を描きおろしてくださったTERUさんに、この場を借りて深く御礼申し上げたい。

2023.11.06(月)