「お母さんはあのキャラクターが好き。あなたは?」
「私は別な人がいい」
「このお話は、このあとどうなっていくと思う?」
「きっと、ピンチの主人公を誰かが助けに来るんだよ」
「あのシーン、とってもよかったね」
「うん、感動した」
そんな母との会話は、とても楽しかった。その体験が、私の物語における想像力を育んでくれたのだと思う。
子供の頃の私は、あまり活発ではなかったように思う。転校が多く、やっとその土地になじんだと思うと引っ越さなければならない。新しい学校ではそこにはすでに子供同士のコミュニティが出来上がっていて、仲がいい友達はなかなかできなかった。一緒に遊ぶ子がいなかったため、いつもひとりで本を読んでいた。
ひとりでいる私を周りは「可哀そうな子」と思っていたかもしれない。でも、私自身はそれほど思いつめてはいなかった。
もともとひとりでいることが苦ではなかったし、友達がいない淋しさは本が埋めてくれていた。ページを開けば魅力的な登場人物たちがいて、さまざまな世界で活躍している。その世界に没頭しているあいだは、淋しさを忘れることができた。
いまも、誰かといるより、ひとりの時間のほうが多い。誘えば食事やゴルフに付き合ってくれる編集者はいるが、ふと思い立った時に気軽に声を掛けられる友人はいない。
昔と同じく、たまに淋しいと感じるときもあるが、そんなときはやはり本を開く。そこには自分が知らない出来事や人の価値観、ドラマがある。その世界にどっぷり浸かっていると、いつしか心が穏やかになっている。
好きな物語のテイストも、昔と変わっていない。
子供の頃に好きで観ていたテレビは古谷一行さんが金田一耕助を演じた「横溝正史シリーズ」や「必殺仕事人シリーズ」。映画なら「ゴッドファーザー」「仁義なき戦い」「マッドマックス」。愛読していたマンガは「ブラック・ジャック」「北斗の拳」「漂流教室」といったバイオレンス要素が強いものだ。ちなみに初恋は渡瀬恒彦さんとブルース・リーである。
2023.11.06(月)