結果、その作品がデビュー作となったのだが、その話をすると「嬉しかったでしょう」と言われる。だが、私の場合はそのまったく逆だった。受賞の連絡をうけたときにまっさきに思ったことは「どうしよう」だった。助走期間がまったくない状態でのスタートで「私に二作目が書けるのだろうか」という不安しかなかった。

 二作目がどれだけ大切かは、当時、通っていた小説家講座で知っていた。

 私はデビュー前に、山形市で行われていた小説家講座に通っていた。月に一度、第一線で活躍している作家や編集者が訪れ、受講生のテキストを講評してくれるのだ。それを知った私は、時間を見つけて通っていた。作家になりたいという思いはなく、ただ作家に会いたくて顔を出していた。

 講座には足掛け四年通ったが、顔を出せたのは半分くらいだった。そのなかでお会いした作家や編集者の方々は、それぞれの文学論をお持ちで、テキストの読み方も違っていた。ただ、誰もがひとつだけ共通することを言っていた。「作家はデビューしてからが大変だ」ということだ。少々乱暴な言い方になるが「書き続けていればいつかデビューはできる。しかし、そこから生き残るのが大変だ」とのことだった。

 加えて編集者は「特に二作目は大切です」と言っていた。デビュー作は「××新人賞受賞作」という看板がつき注目されるが、二作目はそれがない。看板がないところでどれだけ読者を掴めるかが作家として生き残れるかどうかの大きな分かれ目になる、というのだ。考えているネタもない。専門知識もない。文章にも自信がない私が、どれほど不安だったかお察しいただきたい。

 さきほど、作家を目指していたわけではない、と書いたが受賞の知らせを受けたあと「作家になれたからには生き残りたい」と強く思った。それはいまでも同じだ。

 デビューしてから十五年になるが、次の作品が書けるだろうか、という不安と、作家として生き残りたい、という思いは変わらない。日々、常になにかに怯え、自分を奮い立たせながら書いている。

2023.11.06(月)