この話をすると多くの方から「少女漫画とか恋愛ドラマとかは苦手なんですか」と訊かれるが、そうではない。私の世代だとマンガなら「キャンディ・キャンディ」や「はいからさんが通る」「エースをねらえ!」も読んでいるし、ドラマなら「コメットさん」といったファンタジーものや、恋愛ドラマの金字塔のひとつ「101回目のプロポーズ」も観ている。どれも面白かったが、胸に深く刻まれているのが、バイオレンス要素が強めのものなのだ。

 どうしてなのか、自分なりに考えたことがある。出た答えは、きっと私は個が好きなのだ、だった。世の中の不条理や理不尽な出来事に、なににも属さず、己の信念に基づき立ち向かっていく。泥にまみれ傷だらけの見た目はかっこいいとは言えないが、その闘う姿がとても尊いのだ。もがき、あがき、泣きながら、懸命に前に進もうとする登場人物の生き方に感動する。そのような作品は、いまでも好きだ。

 子供のころからいまに至るまで、なにか変わったことがあるならば、読み手から書き手になったことだろう。

 作家になってから「子供の頃から作家を目指していたんですか」と訊かれることがある。実は、そうではない。小説は好きだったが作家になろうと思ったことは、一度もない。

 私は二〇〇八年に「このミステリーがすごい!大賞」で大賞をいただき作家としてデビューした。そのときの投稿作品がデビュー作『臨床真理』(角川文庫)だが、投稿したときも作家になるつもりはなかった。投稿した理由は、自分がどこまで小説というものを書けているのか、を知りたかったからだ。自分が書く文章が果たして小説と呼べるものになっているのかすらわからないままの投稿だった。

 投稿先を「このミステリーがすごい!大賞」にした理由は、運よく一次予選を通過すればサイト上で短い選評がもらえたからだ。いまは、一次や二次を通過すればコメントがもらえる新人賞が増えているようだが、当時は最終選考まで残らなければなんのコメントももらえない賞が多かった。自分の作品のどこが悪くてどう直せばもっとよくなるかがわからなかったのだ。「作家になりたい」ではなく「小説が上手くなりたい」と思っていた私は、ほんの数行のアドバイスが欲しくて、「このミステリーがすごい!大賞」に応募した。

2023.11.06(月)