フランスの作家モーリス・ルブランの作品集に『ルパン対ホームズ』がある。
ルブランはもちろん怪盗アルセーヌ・ルパンの生みの親で『ルパン対ホームズ』はそのルパンが英国の名探偵シャーロック・ホームズと一戦まじえる話を収めている。ただホームズの生みの親コナン・ドイルにはことわりなしだったようで、話の出来もルパン贔屓(びいき)に傾いているのは残念至極。
アナタならルパンとホームズ、どちらに花を持たせるか。
ミステリー通でも難題であるが、その主因は作者の違いにあるかも。早い話、ホームズもルブラン作だったら、何の問題もなかったのではないか。
中山七里「静おばあちゃんと要介護探偵」シリーズのことを考えるとき、いつもそのことを思い浮かべずにはいられない。このコンビが誕生したのは、著者いわく「“暴走老人”の玄太郎が主人公のミステリ『要介護探偵の事件簿』の続編として、『静おばあちゃんにおまかせ』で、安楽椅子探偵として登場させた静さんと組ませたら、さらに面白くできるのではと思ったのがきっかけでした」(「オール讀物」二〇一九年一月号)とのことだが、ルパンとホームズのような水と油の関係ではなく、対照的なキャラではあれ、両者とも名探偵という造形が功を奏したというべきか。
考えてみれば、中山七里の作品世界は地続きになっているのだ。『静おばあちゃんと要介護探偵』はデビュー作『さよならドビュッシー』や『静おばあちゃんにおまかせ』とつながっていたが、それと同様、他のシリーズもの、ノンシリーズものともつながっているということで、それらが同じような化学反応を起こす可能性を秘めているとしたらトンデモないことだ。改めて著者の深慮遠謀家ぶりがうかがえよう。
さて、本書『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』はその『静おばあちゃんと要介護探偵』の続篇に当たる五篇を収めた連作集だ。日本で二〇人目の女性裁判官で東京高裁の元判事・高遠寺静は法科大学に招かれ名古屋に滞在するが、そこでトンデモない地元の有名人と知り合う。それが不動産会社の社長にして商工会議所の会頭、町内会の会長などの要職を兼任する経済界の重鎮、“要介護探偵”の異名を持つ香月玄太郎だった。頑固でワンマンな暴走機関車のような玄太郎に振り回される日々が続いたが、一ヶ月後、和光市にある司法研修所の教官に招へいされ、東京に戻ることに。そうしてまずは健康診断を受けに練馬の病院を訪れるが、そこへいるはずのない人の声が。
2023.10.30(月)
文=香山二三郎(ミステリー評論家)