香月玄太郎は何と病気の疑いが出て、東京の名医を頼ってこの病院にきたという。

 しかもそこには何故か警察も大挙して押し寄せてくる。

 かくて第一話は、静おばあちゃんと要介護探偵がはからずも大腸がんの名医をめぐる医療過誤疑惑に巻き込まれる羽目に。縁が切れたと思われた二人だったが、思いも寄らない再会劇は腐れ縁ぶりの証といえようか。名古屋では警察をも顎で使った玄太郎だったが、さすがに東京では思い通りにはいかない……と思いきや、「この、くそだわけええっ」といつもの怒号を浴びせつつも案外柔軟な対応で、入院患者の点滴バッグがすり替えられた謎に迫っていく。

 第二話では、手術を無事に乗り切った玄太郎のもとに、中央経済界の要人たちが挨拶に訪れる。そのうちのひとり、日建連(日本建設業連合会)会長の汀和克洋が相談事を打ち明ける。巷を賑わせている構造計算書偽造問題では、鳴川秀実一級建築士かカイザ建設の介座峯治社長のどちらかが嘘をついていることで報道も紛糾、国会の証人喚問を待つ事態になっていた。両者と関わりのある汀和は懊悩の極みにあったが、そんな矢先、鳴川が歩道橋から転落死する。玄太郎と介護士の綴喜みち子と代わりばんこで付き添うことになった静も捜査に対応することになるが……。

 第三話は高齢者の自動車暴走事故シーンから幕が開く。玄太郎はまだ入院中だが、ベッドの上で怪気炎を上げている。そんなとき第二話で顔見知りになった愛宕署の砺波刑事が現れ、相談をもちかける。三日前、浜松町で七〇歳の老人が暴走事故を起こし亡くなったが、老人は彼の元上司で車には日頃から乗り馴れていたし、そんな事故を起こす人柄でもないという。というわけで、玄太郎は静ともどもリハビリ代わりに現場検証に訪れる。久々に遠出した玄太郎が事故現場で本領発揮するところにご注目。そのワンマンぶりにおいても、慧眼な名探偵ぶりにおいても!

 第四話と第五話は連作仕立ての中でも対になっており、判事が死刑判決という重い裁断をくだす職であることを改めて痛感させられる話になっている。七月、静は新聞でかつての同僚判事・多嶋俊作の訃報を見、葬儀に参列する。その日、やはりかつての同僚で、今は前橋地裁の刑事部に勤める牧瀬寿々男と再会するが、喜びもつかの間、祖父の死を嘆く少女の訴えに疑問を抱く。静は玄太郎の力を借りて火葬を中断、遺体を調べ直そうとするが……。

2023.10.30(月)
文=香山二三郎(ミステリー評論家)