そして第五話は、ショッキングな知らせから始まる。静は司法研修所を退職し、孫の円と暮らすことに。その痛手も癒えぬ一〇月某日、第四話に出てきたばかりのある人物が自宅の宿舎近くで殺される。静は群馬県警の依頼もあって、捜査に協力することになる。いつもは玄太郎がメインの探偵役を引き受けるのだが、第四話に引き続き、静が主役に回ったシリアスなタッチの社会派ミステリーに仕上げられている。
各話のタイトルは、例によってアガサ・クリスティー作品のパスティーシュになっているが、それはもともと静のモデルがミス・マープルであろうことによろう。ミス・マープルのファンには静の名探偵ぶりが堪能できるラストの第四話、第五話、お奨めです。
シリアスといえば、第五話の締めの一文もシリアス極まりないが、これはあくまで静の視点で語られていることにご留意いただきたい。玄太郎視点に転じてみればトンデモない、憶測、くそだわけな勘繰りに過ぎないのではあるまいか。そしてこの著者なら、次の瞬間にはそれを逆手に取るヒネリ技を繰り出しても何ら不思議ではない。何しろ“どんでん返しの帝王”の異名を取る作家なんだから。
銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2(文春文庫)
定価 825円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
静おばあちゃんと要介護探偵(文春文庫)
定価 781円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
2023.10.30(月)
文=香山二三郎(ミステリー評論家)