インタビューで「これから書きたいものはなんですか」と質問されることがある。そのたびに自分自身に「なんだろう」と問うが、その答えもいつも同じだ。
人が心に抱えているものだ。世の中の不条理に対する怒り、愛しい人を失う哀しみ、貧しさからくる飢え、病の苦しさ、死への恐怖といったものだが、それは翻せば生への喜び、愛しい人がいる幸せ、豊かさからくる満足、誰にでも平等に訪れる死へと繋がる。
これは時代や国が違っても、誰もが抱く感情であり、普遍的なテーマだと思っている。それらと向き合ったときに悩み、考え、決断し、前に進む姿を描いていきたい。
私はきっとこれからも、新しいなにかに出逢い、影響を受けながらも、なにも変わらず書き続けていくのだと思う。たくさんの人に支えられながら、なにも変わらずに小説を書いていくのだと思う。
結びに、この本や私の作品を手に取ってくださった読者のみなさまに、心から感謝の気持ちをお伝えしたい。書店やインターネットには、古典と呼ばれる古いものから、昨日発売になった新刊まで、数えきれないくらいの作品がある。その数多の物語の中から、自分が書いた一冊を手に取ってもらうことがいかに大変なのか、わかっているつもりだ。だからこそ、読者の方が最後のページを閉じたとき「面白かった」と言ってもらえるような作品を書こうと思ってきたし、これからもそう思いながら書いていく。
がんばります。
「あとがき」より
ふたつの時間、ふたりの自分(文春文庫)
定価 902円(税込)
文藝春秋
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2023.11.06(月)