デモ曲を聴いてもらう行為は、裸を見せるぐらい恥ずかしい

――そこまでくると、心が折れそうになりませんでしたか?

 ありました! 一度、事務所の社長(渡辺淳之介氏)に電話して、「もうダメだ」と、泣きじゃくりました。そしたら、路上ライブシーンの撮影で、喉のケアグッズをいっぱい持ってきて、「頑張れ」と言ってくれました。私、頑張りたい気持ちは人一倍強いんですよ(笑)。

 でも、そのときはさすがに身体も作曲能力も追いついてこなくて……。それだけ大変だったけれど、私がどんなデモ曲を作っても、岩井さんが受け止めてくださったので、後半の曲作りはスムーズにいきましたね。

――最終的に、デモ曲はどれぐらい作られたのですが?

 10曲ぐらい作って劇中曲として使われるのは6曲ですね。残りはKyrie名義のオリジナルアルバム「DEBUT」に入れる曲もあれば、葬り去る曲もあると思います(笑)。

 デモ曲を最初に誰かに聴いてもらう行為って、「アイナって、こんなこと思っているんだな」と思われるわけですから、裸を見せるぐらい恥ずかしいんですよ。

 だから、なかなか送信ボタンを押せなかったんですが、岩井さんはずっと待っていてくれました。今となっては、私にとって岩井さんは、東京のお父さんみたいな存在です。

――アイナさん自身のキャリアにおいて、本作はどのような作品になりましたか?

 これまで生きてきて、岩井さんの映画に出れるなんて思ったこともないし、ましてや主演ですよ! 自分にとって、「もう死ぬんじゃないか?」と思うぐらいの出来事だったので、今後、悲しいことがあったり、「お先真っ暗だ!」という日々が続いたら、『キリエのうた』の撮影期間を思い出して、「私には、こんな宝物みたいな経験があるんだ」と、自分を励ましたいと思える作品になりました。

2023.10.27(金)
文=くれい響
撮影=杉山拓也
スタイリング=菅沼愛(TRON)
ヘアメイク=KATO(TRON)