初の小説をついに刊行したBiSHのモモコグミカンパニーさん。「ワクワクした気持ちで小説に挑戦できた」という彼女がテーマにしたのは「本当の意味で幸せになること」。
2年かけて書き上げた、初小説『御伽の国のみくる』
インタビューが行われたのは、春の気配が色濃くなった暖かな日。モモコグミカンパニーさんがシャッターに合わせて取るポーズも、弾んで見える。
「きょうのためにこの花柄のブラウスを買ったんです。撮影場所の花の感じとマッチしてうれしいですね」
楽器を持たないパンクバンドとして快進撃を続けるBiSHのメンバーである、モモコグミカンパニーさんはそもそも人前に出るような存在になる気はなかったというところから出発しているのが面白い。
「そのへんの経緯は、『目を合わせるということ』というエッセイ集でも書いたのですが、なぜ女の子たちはあれほどアイドルになりたいんだろうと、個人的に昔から興味があったんです。オーディションに応募する子たちを観察したくて参加したのに、合格と言われて固まったくらい。
ただ、家に帰ってプロデューサーの渡辺淳之介さんがBiSHの前に作ったBiSというグループをチェックしてみると、いわゆるアイドルじゃなかった。ぶっ飛んでた。正統派のアイドルに憧れてなかった私としては、むしろ『これなら楽しそう』と感じたんですよね。相談すれば何でもやらせてくれそうだな、と。作詞やエッセイや、髪色も変なのをたくさんしました(笑)」
BiSHは、6人のメンバーそれぞれの個性が光るグループだが、中でも、グループで最も多くの作詞を手がけ、コラムの連載を持つほどの彼女の文才には注目が集まっていた。そんなモモコグミカンパニーさんの初小説がついに刊行。
「書き上げるまで2年ぐらいかかりました。私自身、小説が好きだからこそ、自分みたいな書き方もよくわからない人間が踏み込むものじゃないとずっと臆病になっていた。ただ、メンバーもソロ活動でがんばっている子が多くて、それが何か気持ちを後押ししてくれた部分もあります。解散をすることが決まって、自分が頑張りたいことはなんだろうと思ったら、ワクワクした気持ちで小説に挑戦できました」
「本当の意味で幸せになるってどういうことだろう」と問い続けながら書いた
メイド喫茶でアルバイトをしながら、アイドルになる夢にもがき続ける〈みくる〉こと友美の苦悩と成長を描く『御伽の国のみくる』。アイドルの卵として、ひとりの女性として、迷いながら生きる彼女を通して、なにが成功で失敗か、なにが正解で不正解かを問いかけてくる物語だ。
「第一章の冒頭、〈みくるんは、僕となんか似てるんだよなぁ〉という、みくるの唯一のファン〈ひろやん〉の言葉がまず浮かんだんです。私も活動していく中でそういうこと言われたことがあるんですよね。その時は言われた理由も見当がつかなかったし、その答え探しがしたかったのもあったかもしれない。最初にプロットを組み立てる書き方はできなかったので、書いた1行が次の1行につながっていく感じ。綱渡りするような気分でした」
友美が働くメイド喫茶の〈リリア〉こと麻由子は容姿も人気も抜群。友美はアイドルに限りなく近い彼女を、仰ぎ見るような気持ちで見ていた。ふたりは、リリアがメイド喫茶を辞めた後で、悩みを打ち明け合うような関係になっていくのだが……。
「リリアはすごくキラキラしている存在だけれど、じゃあ幸せかと言えば私にはそうは思えなかったんです。他人のものが欲しい人で、そのくせ自分の根底の欲求はわからないまま。
反対に友美は、容姿にコンプレックスがあっても、好きな服もはっきりしていてそれを着ている。夢に近づけないもどかしさはあっても、何がしたいかはわかっている。どちらも幸せではないけれど、アイドルオーディションに片っ端から応募してる子ってリリアに近いのかなと。本当はもっと輝ける場所が無限にあるはずなのに、『キラキラした場所に行くのが女の子にとっての正解』だと思い込んでいる気がします。
若さやその時にしかないものに囚われ過ぎていて、逆に自分の可能性を狭めているようで、苦しくなる。本当の意味で幸せになるってどういうことなんだろう、どうすればいいんだろうと、誰もが関心のあるテーマだと思いますが、私もこの小説を書きながらずっとそういう部分を書けたらいいなと問い続けていました」
作中で描かれる恋愛関係は、フィクションとわかっていても痛い。友美は、気まぐれに友美をもてあそんでお金の無心をする翔也にすがる。リリアは、ハイスペックだけど独占欲の強い恋人に振り回されている。
「友美は自分でちゃんと立てなくて、一方的に利用されているような関係でも、弱いから断ち切れない。本当に好きかどうかもうわからないけれど、とりあえず近くにいてくれる誰かが欲しいという女性は、案外多いのではないかと思います。
リリアみたいに人気者になっても、友美にとってのひろやんみたいな存在、自分ひとりにだけ一途に目を向けてくれる誰かを見つけるのはとても難しい。登場人物はもちろん、現実でも、みな同じように、傷を一緒に背負って、迷惑の掛け合いができる相手を求めているんですよね」
2022.04.01(金)
文=三浦天沙子
撮影=平松市聖