「自分にしか生み出せないものを書き続けたい」

 物語が進むと、なぜひろやんが友美にあれほど誠意を尽くしていたのかの秘密も見えてくる。友美が「これしかないの呪い」から解き放たれ、光が見えてくるラストが美しい。

「読者は、私とみくるを重ねることが多いかもしれませんが、案外そうでもなくて。むしろひろやんも私だし、リリアも私。登場人物全員が自分であり自分ではないということは、言っておきたいです。

 執筆中、息抜きによく散歩に行っていましたが、音楽を聴きながら『あの人物ならこの曲をどんな気持ちで聞くのかな』とか空想するのが楽しかった。自分と登場人物の距離感がわからなくなって、自分自身の現実が飲み込まれそうになったことも。

 実際に書き進めるのは大変だったけれど、未熟ながらも実際に書いてみて、こんなに自由な世界があるんだと。小説であればなにを言ってもいいし、同時に居心地のよさもある。それは私自身も大きな発見でした」

 全編、友美の視点で進むが、その観察者的な描写にハッとすることがしばしば。

「一歩後ろから物事を見るクセは昔からですね。そういえば、小学校の文集の趣味欄が『人間観察』でした(笑)。カフェにいればつい隣の会話に聞き耳を立ててしまいますし、ちらちら周囲を観察しながらいろいろ考えます」

 BiSHの解散までのカウントダウンは始まっている。モモコグミカンパニーさんは、今なにを思うのか。

「解散という言葉はわかりやすい指標ですが、始めたときから『こういう仕事には終わりがあるものだ』と意識していました。だから、寂しくはあるけれど、それほどネガティブには捉えていません。歌うことや撮られること、演技、ライブ、BiSHとしてのいろいろな活動があったからこそ、小説へもポジティブに挑戦できました。

 今回小説を書いて自分の未熟さも痛感したけれど、自分にしか生み出せない作品が書けたと思っています。その実感を大切にしながら、どんな形であれ、これからも自分の言葉を残していきたいです」

 本好きとして知られる彼女。森絵都の『カラフル』や梨木香歩の『西の魔女が死んだ』は、読む前と後で人生が変わったと思うくらい、特に心が震えた作品だという。

「そんな感動を渡せる作品を、いつか書けたらいいなと思いますね」

モモコグミカンパニー

2015年、BiSHのメンバーとして活動を開始。数々のヒット曲を連発して大人気グループとなる中で、最も多くの歌詞を担当する。2018年と2020年のエッセイの発表に続き、本作が小説デビュー作となる。

御伽の国のみくる


定価 1375円(税込)
河出書房新社
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2022.04.01(金)
文=三浦天沙子
撮影=平松市聖