もがきながら進む主人公の人生
――池松さんが演じられたふたりのピアニスト“南”と“博”。そして、森田さんが演じられた“あいつ”。それぞれの役柄についての印象を教えてください。
池松 この作品で描かれるふたりのジャズピアニストの葛藤は普遍的なものであって、自分はピアニストではありませんが、南が言っていること、博が言っていること、どちらもよく理解できました。「俺は一体何をやってるんだ!?」ということの連続性に人生があり、音楽や映画によって人生の隙間、移ろいゆく時代の隙間が埋まることを恐らく人よりも信じてきました。だからこそ、南と博の抜け出したいけど抜け出せない人生のいっときを、時にユニークに、時にエレガントに、切実に演じたいと思っていました。
そして今回はそのふたりの人生を同時に共存させるという大胆かつチャレンジングな試みだったので、そのことによって何を浮かび上がらせることができるのか、というのが課題でした。観る人に映画館で人生を感じてもらうこと、人生の甘美さ、滑稽さ、優雅さ、豊かさを、音楽映画で観てもらう事を目指したいと思っていました。
森田 僕もすんなり入っていけましたし、冨永監督にお任せすれば間違いないな、という思いでした。現場で池松さんがピアノを弾いている姿を見て、「普通だったら気が狂うよな」と思いつつ、とても美しいものを見ている感じがしました。
――池松さんは、撮影前に半年間、ジャズピアノを訓練されたそうですね。
池松 ピアニストの映画を、全く弾いてない俳優が演じていたとしたら……自分だったら観たいと思えません。トライしてどこまでいけるか分かりませんでしたが、せめて物語の大きなカギとなる「ゴッドファーザー 愛のテーマ」だけでもと思って、トライさせてもらいました。
その道のプロに届くことは決してできませんが、ピアノに触っている時間が少しでも役に近づけるプロセスだと信じて、寝るときとご飯食べるとき以外は一緒にいるようにしていました(笑)。
2023.10.05(木)
文=くれい 響
写真=佐藤 亘
スタイリスト=吉本知嗣(森田)
ヘアメイク=内藤歩(池松)、TAKAI(森田)