池松壮亮が考える「他者の目」と「ファスト化」
2021年に放送され、大きな反響を呼び起こしたオダギリジョー脚本・演出・編集・出演のドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』。オダギリが警察犬役で登場し、その強烈なビジュアルや人を喰ったようなギャグの連続、実験的な映像表現、衝撃的な最終話の展開は今も語り草だ。
2022年9月20日(火)から放送開始されたシーズン2では、池松壮亮や永瀬正敏、麻生久美子といった続投メンバーに加えて、松たか子や松田龍平・翔太兄弟、浜辺美波らが出演。さらに豪華度を増した本シリーズの撮影現場や作り手の想いを、池松壮亮に語ってもらった。
後編では、池松の目を通して「他者の目」や「言語化」といった現代的なテーマについての思考のやり取りも。彼は何を考え、ものを作っているのか。その現在地に迫る。
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撮影現場にはクレープ屋さんのケータリングが
――「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」は個人的に笑いの多い現場だったのではと感じていますし、クレープ屋さんが来ているなどケータリングの豪華さも素敵でした。昼休憩で皆で食卓を囲む韓国や諸外国と異なり、日本の撮影現場だとまだまだ食の充実度が低い、というのはよく言われますよね。
そこは本当に現場のリアルというか、思ったところでなかなか変わってくれない。みんなが変わって欲しいと思っているけど、お金や時間の問題で、システム化されてしまっている部分も大きいと思います。
ただ、オダギリさんが監督することで、ご飯の面や俳優・スタッフのケアなど、助かる部分が沢山ありました。オダギリさんのように国内外の多数の現場を見てきた人が正しいことを指摘してくれて、現場の味方となり、撮影が豊かになるのはすごくいいことだと思います。
当たり前のことですが、現場が豊かでないと作品はどんどん貧しくなっていきますから。食だけでなく、この業界の労働環境についての問題はとても深刻だと思います。何とか改善に向かって、出来ることを考えています。
――オダギリさんに『ぜんぶ、ボクのせい』でインタビューさせていただいた際「『オリバーな犬』の現場は俳優さんが盛り上げてくれる」とおっしゃっていました。
とても健全ですね、みんなこの作品が好きだったんだと思います。一平パートでは、今回佐藤浩市さんがムードメーカーとしてぐいぐい引っ張ってくれました。浩市さんがこの世界観を理解して率先して遊んでいる姿に、僕自身とても影響を受けました。
浩市さんとオダギリさんの付き合いは長いですし、おふたりとも血筋が似ているというか、関わってきた作品や監督にすごく近い部分があります。そんな浩市さんがあの役を、この作品自体を喜んで、戯れている姿が、現場に大きな力をもたらしていたと思います。
――俳優としてのオダギリさんと、監督としてのオダギリさんは現場の居方も意識的に変えていると伺いました。池松さんの目にはどう映りましたか?
全然違いますね。責任の度合いが明確に違いますし、監督としてのオダギリさんは「自分の脳内から生まれているものに人を巻き込んでいる」という意識が強いと思います。そのぶん緻密で、孤独で大変な作業でしょうし。
俳優って、ものすごく悪い言い方をすると、言われたことをやっていればなんとかなるんです。もちろん1を10にしたり20にすることが可能ですから、そこに関してはそれぞれプロフェッショナルだと思いますが、やっぱり0を1にする作業が最も大変ですよね。
俳優であるオダギリさんが監督をするということは、あのオダギリジョーがどんな作品を作ったのか、より個の存在として見られることになります。『オリバーな犬』は、オダギリさんがその茨の道を行き、どう思われるかわからないし、どういうものができるかわからないけど、自ら仕掛けて遊ぶことに感動出来る人たちが集まって、一緒に楽しめた作品だと感じています。
2022.09.30(金)
文=SYO
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=FUJIU JIMI