今年の1作として強烈に残った、あの話題作
――言葉との距離感といいますか。
そうですね。一方でこれまで意味や言葉に縛られすぎたところは確実にありますから。その反動はあると思います。その先の「じゃあ何を信じるべきなのか?」というフェーズがもうとっくにやってきていますが、そこはちょっと心配です。
言葉も嘘だし信じられない、物語も嘘だし信じられない。ディープフェイクなんて本当に恐ろしいですよね。真実が何も語られなくなった時、あるいは届かなくなった時、人に伝えたいことを伝えようという意志を持ち続けられるかは大きな課題ですよね。
――映画界だと、加速化していく時代の中で、逆にスローな作品が、特に初監督の方の作品に出てきたような気がしていて。池松さんがトークイベントに登壇されていた『こちらあみ子』はまさにその筆頭ではないかと思います。
そういった流れは、体感の反動も大きいと思います。恐らくTikTokやファスト映画が広がれば広がるぶん反動として映画の尺は長くなるでしょうし、映画本来、あるいは人生本来の速度に近づいていくものが増えていく気がします。
忙しくて情報過多な現代において、手軽でファストなものが尊ばれるのはよくわかります。そういったものが自分たちの助けになるものであるというのはもう重々知っていますから。手軽さや便利さと、人生の豊かさ、どちらも必要なもので、大切に守っていかなければいけないと思います。
――なるほど。カウンターではなく、本質に立ち返るのですね。
とりわけ現代、僕が暮らす東京ではあまりに本質を見失いそうになるので、時間がある限り、例えば緩やかな映画を途中でとめずに映画館で浴びようとは思っています。『こちらあみ子』、本当に良かったですよね。
――時代の速度に即してスピーディに展開する作品が増えていく一方で、スローさを愛する作品も生まれてくる。
どっちもあっていいと思います。どちらも時代と人が生み出しているものです。トレンド重視でどちらか一方に寄るのは反対です。今のところ、今年の1作として強烈に残ったものには『トップガン マーヴェリック』があると思いますが、すごくアナログなことをやりつつ現代的な質も高めていて、あれだけちゃんと人に届いていったところに時代のアップデートを感じました。
技術的な部分は今後さらに進化していくのは間違いないわけですから、そうじゃない部分を忘れずにいないと、表面的なものにしかならないですよね。あの作品を見ていてとてもうれしかったのは、最終的に残ったのが肉体だったこと。時代に合わせたアレンジを加えながらも、ちゃんと存在と実存、人の肉体を映している映画だったことでした。
池松壮亮(いけまつ・そうすけ)
1990年7月9日生まれ、福岡県出身。2003年『ラストサムライ』で映画デビュー。
近年の出演作として『夜空はいつでも最高密度の青色だ』、『斬』、『宮本から君へ』、『アジアの天使』、『ちょっと思い出しただけ』など多数。
2023年公開予定の、庵野秀明監督による『シン・仮面ライダー』では主演を務める。
ドラマ10 『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』 シーズン2
放送予定 6話 2022年10月4日(火) 22:00~22:45(NHK総合)
再放送 10月4日(火) 第5話・11日(火) 第6話 15:10~15:55(NHK総合)
※全エピソードをNHKプラスでも配信します。
脚本・演出・編集 オダギリジョー
制作統括 柴田直之(NHK) 坂部康二(NHKエンタープライズ) 山本喜彦(MMJ)
出演 池松壮亮、オダギリジョー、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、永山瑛太、佐藤浩市 ほか
制作 NHKエンタープライズ
制作・著作 NHK、MMJ
公式Instagramアカウント @nhk_oliver
NHKプラス https://plus.nhk.jp/watch/pl/49326bd2-7e44-4384-9a10-14bef1fdb5af
2022.09.30(金)
文=SYO
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=FUJIU JIMI