この記事の連載

変わっていないという作品選びの基準とは

――『オリバーな犬』前後で、池松さんの作品選びに変化はありましたか?

 そこは変わりません。ビジョンをもってちゃんとものづくりを真剣に楽しんでいる人たちに惹かれますし、そういった人たちと価値あるものを生み出したいという気持ちはいつも同じですね。

――ひとつの時代の側面として、意思決定の際に「人からどう見られるか」が先行してしまう機会が増えていると聞きます。初志を貫いている池松さんは、そういった部分をどう感じますか?

 んー、人からどう見られるか気にし過ぎるのは良くないけど、それが無いって3歳児と一緒ですよね。大きなマイナスでは全然ないと思いますし、むしろこれまでの時代にそれが無さすぎたような気がしてしまいます。それは大前提として、「人からどう思われるかを気にしない方がいい」なんて誰でも言えることですし、みんな頭ではわかっていることですからね。

 人からどう見られても気にしないべきだ。ではなく、人からどう見られても、思われても気にしなくていられるような他者への寛容性の方が、この社会には断然必要なんではないかと思います。他者との繋がりの中で生きていくことと、自分がやりたいこと、思ったことを相手に敬意を持った上ではっきりと表明出来るようにしていくべきだと思いますね。普通の回答になってしまいましたが。

――いまの話題に付随して、作品の感想でもファストに言語化する向きについてはいかがですか? 「こう思われたいからこう発信する」という心理が働いているような気がしていて。

 これだけ言語化を求められるサイクルになってしまえば、それもしょうがないことだと思ってしまいます。みんなで言葉の価値を下げながら、容易い心のこもってない言葉を大量消費していますよね。

 本来は言葉にそんなに価値を持ちすぎなくていいと思っていますが、SNSや誰もが見られる場で多くの相手に向かってそれが行われていると、そりゃファスト化しますよね。素早く・簡単・大量生産の時代においては、ファスト化した方が素早く多くの人に届きますし、何より楽ですしね。

 互いに言葉に心がなくなってくるのは当然だと思います。僕自身も宣伝で喋る立場として、どうやって作品を言葉にするかを次々考えてしまいますし。言葉は大量消費される、ファスト化することを前提に、言葉をどれだけ大切にするかは、もう人それぞれの価値観だと思います。

2022.09.30(金)
文=SYO
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=FUJIU JIMI