森田さんとのシーンはゾワゾワした

――現場で、実際にお芝居されたときのお互いの印象は?

森田 凄く安心してそこにいられるというか、池松さんに気持ちを委ねられましたね。自分が演じた“あいつ”が寂しくて、悲しい男という設定だったので、その隙間を埋めてくれるような安心感もありました。

池松 森田さんとの掛け合いは毎シーン楽しかったです、いつもゾワゾワしてました。このファンタジックでイマジンな世界で、誰よりも音楽を切実に求めているヤクザを、驚くほどピュアにファニーにエネルギッシュに演じられていました。何か、うちに秘められた決してひけらかさない、凄まじいパワーを感じました。

――冨永監督による独特な世界観はいかがでしたか?

池松 改めて冨永さんはこの国、この時代の最も稀有で才能あふれる監督のひとりだと思いました。共に過ごし、たくさんのインスピレーションをもらいました。念願叶って冨永作品に参加することができ、とても有意義で幸せな時間でした。その独特な語り口と誰にも真似できない独自の映画技法において、冨永さんは正真正銘の芸術家だと思います。簡単に説明できないのが冨永映画の最大の魅力で、宣伝するのが難しいのが冨永映画の最も嫌になるところです(笑)。飽くなき探究心と新たな挑戦の中で、真実を見つける方法は常にあることを証明してくれました。この映画を何年もの月日を費やして生み出してくれたことに、心から感謝しています。

森田 冨永監督は、初めてお会いしたときに“あいつ”のキャラクターの説明をしてくれたのですが、愛情を持って説明してくださって、とても信頼できる方だと思いました。

 自分のシーンで印象に残っているのは、高橋和也さんと松尾貴史さんとのシーン。ラジカセで殴られた僕が松尾さんをナイフで刺すんですが、ラジカセが本当に当たってしまい、高橋さんが「大丈夫か?痛くないか?」と、かなり気にかけてくださって。とても優しい方でした。完成した作品を観たときに、暴力が暴力だけに終わっていなくて、コミカルな部分もあったり、ジャンルを超越しているところがいいなぁと思いました。

――オトナの音楽映画としても、とても魅力的な作品に仕上がりました。

池松 こちらもいつかやってみたいと念願していた音楽映画でしたが、やっぱりいいですよね。冨永さんがジャズに博士のように詳しく、選曲も本当に見事でした。さらにクリスタル・ケイさんや、今回、俳優に挑戦するのが初めてだった、サックスの若きスーパープレイヤーといわれる松丸契さんなど、その音楽のスペシャリストたちがこの映画に大きな力を注いでくれて、とても上質な音楽映画に仕上がったと思います。ぜひ映画館の良い音響で、この映画の音と光を浴びて酔いしれて、人生のほんの隙間を埋めてもらえたら幸せです。

2023.10.05(木)
文=くれい 響
写真=佐藤 亘
スタイリスト=吉本知嗣(森田)
ヘアメイク=内藤歩(池松)、TAKAI(森田)