高橋 その次には「アルコホーリクス・アノニマス」という、アルコール依存症の人がステップを踏んで克服するための本を全部読んだ、と。いかに取っ散らかったものもあっという間に吸収してしまうか、というところでそれが例として出されるんですけども。まあ、相当わけわからないですね(笑)。

永嶋 (笑)。という、ともかくこの本の主人公は天才少年であると。

高橋 いかん、あらすじを紹介する前にいきなり激しく脱線してしまいました。

永嶋 まだ大丈夫でしょ(笑)。主人公はマッカーシーを読んじゃうくらいの天才少年だと。

高橋 それも12歳にして。という天才少年が、謎の機関〈研究所〉にいきなり誘拐されてしまう。その理由は何かというと、実はルークにはちょっとした超能力がある。ちょっと感情が高ぶったりすると、触れることなく物をちょこちょこっと動かしてしまうんです。

永嶋 でも、ちょっとなんだよね。

高橋 ピザのアルミ皿、それもピザが載っていたら無理というくらいの。

永嶋 ピザの皿というのがキングらしい上手さ。あー、わかるな、という。

高橋 すごくイメージしやすい。

永嶋 日常の軽いものとしてね。

高橋 その彼が、麻酔薬みたいなものを打たれて誘拐されて、朝起きると、自分の部屋に見えるんだけれども、自分の部屋とちょっとずつ細部が違っている場所だった! という感じで始まる……わけじゃなくて(笑)。

知らないおじさんの話から始まりますが

永嶋 そうなんですよ。僕も最初にこの小説について、キングのエージェントと打ち合わせをするわけなんですが、「The Instituteというのが出る、それはこうこうこういう話だ」と、今みたいな説明を聞いたの。で、おっ、『ファイアスターター』みたいだな、凄いぞ、と期待をしていたんですよ。その期待は裏切られていないんだけど、実際原稿が届いて読みはじめると、なんだか知らないフロリダのおじさんの話で(笑)。あれ、天才超能力少年の話じゃなかったっけ、という。おじさんの話がまず、始まる。

2023.07.21(金)