高橋 文藝春秋翻訳出版部がお送りする「翻訳の部屋」、第15回です。今回はスティーヴン・キングの新作長編『異能機関』について、長年担当をしてきました部長の永嶋に、今回担当しました私がいろいろと教えを乞うていきたいと思います。

永嶋 よろしくお願いします。さて収録している今日(6月14日)、たまたまですが、コーマック・マッカーシーというアメリカの作家が亡くなったという訃報が流れまして。

高橋 そうなんですよね。キングさんもさっそく、追悼ツイートをしていました。

永嶋 してらっしゃいましたね。マッカーシーも少しホラーっぽいというか。『すべての美しい馬』はそうでもないですが、その前後では、映画『ノーカントリー』の原作になった、最近新版では『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』に改題されている……。

高橋 『血と暴力の国』。

永嶋 あれは本当に暴力的な小説だし、『ブラッド・メリディアン あるいは西部の夕陽の赤』、ハヤカワepi文庫に入っていると思いますけど、あれももうほぼホラーと言っていいくらい、壮大にアメリカの歴史の暴力性みたいなものを、善悪関係なしに容赦なく書くような感じの作品で。キングともあながちまったく別の業界でもない、というか。

高橋 そうですよね。『ザ・ロード』も、ディストピア的世界で親子が旅するというもので。

永嶋 あれもけっこう無慈悲な話でね。キングが好きな方は『ザ・ロード』から入ればいいのかな。そこから『ブラッド・メリディアン』にいくか、あるいは『ノー・カントリー~』にいくか。

高橋 だんだん暴力的になっていく。

永嶋 そうそう。

やっとキングの話です

高橋 そうそう……って、いや、これキングの話ですから(笑)。あ、でも、この『異能機関』の主人公、天才少年ルークくんですが、彼の天才ぶりを家族が思う場面で、コーマック・マッカーシーを全部読破した、というエピソードがあります。

永嶋 あったあった!

2023.07.21(金)