本書は、スティーヴン・キングとオーウェン・キングの合作長編小説 Sleeping Beauties(2017)の全訳で、二〇二〇年十月に刊行された単行本の文庫化となります。
スティーヴン・キングは、作品の多くが映画化されているホラーの巨匠ですが、同じファミリーネームを持つオーウェン・キングは巨匠キングの実の息子で、小説家でもあります。オーウェンは一九七七年生まれ。父キングの住む町として有名な、アメリカのメイン州バンゴアに生まれ育ちます。二〇〇五年に中短編集 We’re All in This Together を刊行、同書は『すべての見えない光』でピューリツァー賞を受賞したアンソニー・ドーアに「キングは派手な奇想の装いの下で、意味深く胸に迫る物語を語るという役割を決して忘れない」と賛辞を受け、また、人物造形についてアン・タイラーやジョン・アーヴィングと比較されるなど、独特の不気味さを持つ現代小説として高い評価を受けました。
二〇一三年には第一長編 Double Feature を刊行。カルトなB級映画の監督を父に持つ青年が自身の初の映画を完成させる前後のあれこれを、奇矯な人物を配して描いてゆくもののようです。父親の造形にはスティーヴン・キングを思わせるものがあるので、主人公にはオーウェン自身が投影されているのでしょう。とはいえその執筆活動は文芸系一辺倒ではないようで、セメタリダンス社やサブテラニアン・プレス社といった父キングとも縁の深いホラー系出版社の書き下ろしアンソロジーにも短編を寄稿していますし、エイリアンの侵略を受けた学生街での騒動を描くグラフィック・ノヴェル Intro to Alien Invasion(2015)の原作を手がけたりもしています。
そんなオーウェンと巨匠たる父のコラボレーションによる本書、読み心地は父キングのそれとほとんど変わりません。とんでもない奇想を中心にし、素朴なアメリカの縮図のようなスモールタウンの群像劇を丹念に描きながら、徐々に緊張感を高めて、最後には全キャラクターと全物語が壮絶なカタストロフィへと雪崩れ込むという、父キングの作品でいえば『アンダー・ザ・ドーム』のような作品と言えばいいでしょうか。パンデミックを物語の駆動源にした大作ということでは、代表作のひとつ『ザ・スタンド』も想起させます。
2023.01.27(金)
文=編集部