舞台は、山や森が多くを占めるアパラチア地方の小さな町ドゥーリング。この町には女子刑務所があり、これが僻地のスモールタウンの最大の産業となっています。この刑務所付の精神科医クリントが主人公のひとり。さらに彼の妻で警察署長のライラ、動物管理官のフランクの三人を中心に、彼らの家族や同僚など、多数の人物の物語を縒りあわせて進んでゆきます。

 そんな群像劇の中心となっている奇想が、謎の疫病のパンデミックです。やがて「オーロラ病」と呼ばれることになる病は、恐らくはウイルスのようなものにより拡がり、女性だけを感染させて深い眠りにつかせてしまいます。眠りに落ちるや、感染者の身体からは蜘蛛の糸めいた繊維が萌え出し、繭状の物質を形成、女性たちはそれに覆われて目覚めなくなる。無理やり繭を破って起こそうとすると、彼女たちはまるで何かにとり憑かれたかのように凶暴化して、周囲にいる人々を襲う――病が全世界に広がるにつれ、そんな事件が世界で頻発、残された者は彼女たちがふたたび目覚めることを信じて待つほかなくなってしまいます。

 それがどんな事態を引き起こすのか? キング父子は不安と恐慌を徐々に高めながら、ドゥーリングの町をひとつのサンプルとして描いてゆくのですが、この町にはひとつ、ここ以外の全世界と異なる事情がありました。ドゥーリングには、この病の影響を受けない女性がいるのです。それはイーヴィと名乗る女性――突然この町にやってきて、麻薬密売人を殺害してアジトを焼き払った廉(かど)で捕らえられ、女子刑務所に拘置されている謎の女性でした。世界でただひとり、眠っても普通に目覚めることのできる女性イーヴィをめぐる謎が、後半のカタストロフィにつながってゆきます。

 スティーヴン・キングの合作作品としては、ホラー作家ピーター・ストラウブとの『タリスマン』と続編『ブラック・ハウス』があります。この二作の執筆の際には、キングとストラウブが互いに原稿を送り合い、手直しし合いながら仕上げていったという内幕が明かされています。しかし本書に関しては、いまのところ、キング父子がどうやって書いていったかは語られていないようです。日本語版の翻訳にあたり、作中の疑問点について問い合わせのメールをしたところ、オーウェン・キングから回答があり、その文面から、父キングによる加筆修正を含む改稿を重ねたらしきことが感じられました。いずれにしても本書のできばえは、何も知らずに読んだなら「スティーヴン・キングの新作」としてまったく違和感を感じないものになっていることは間違いありません。これまでのオーウェン単独作品をみるに、本書に登場する受刑者の面々や腕相撲(アームレスリング)チャンピオンである女性刑務官、あるいはドラッグ中毒の形成外科医といった奇妙な人物たちに、オーウェンの才気が表れているようです。

2023.01.27(金)
文=編集部