「よしよし、三次元音響に問題なし、と」

「鷲尾さん、怒ってた?」

 マモルが聞くと、ニヤリと笑ったナオキは再び引き戸を音もなく開けて、廊下に置いてあったコーラのペットボトルを掲げた。

「これもらったよ。有望な二年は説教のやり方をよく見とけってさ」

「有望って何の話だよ」

 ユウキがため息をつく。

「わからんわけ? 次の風紀委員と寮長よ」

「ああ、それか」

 ユウキが鼻息を吹くと、宏一はさもありなんと頷いた。確かにこの二人は風紀委員候補の双璧だ。

 三年生すら怯ませるユウキがマッチョ枠で塙の跡を継ぐのは確実だ。そして宏一の、自分にも同級生にも厳しく当たる姿勢は、今の寮長の志布井のストイックさに通ずるものがある。

 風紀委員といえば、二年生の中で頭抜けたIT技術を持つナオキも候補の一人だ。PCやネット利用と切っても切り離せない寮生活のセキュリティマスターとしても、VR甲子園制作の中心人物としても、ナオキは外せない。

 そして三人ともに成績優秀だ。寮の存在意義は、鹿児島の地方出身者に大学進学の道を作ることなのだから、成績優秀でなければ人はついてこない。

「五十九期の委員は、お前らにかかってる感じだな」

 ユウキは歓迎会のために用意された紙コップを人数分並べると、ナオキから受け取ったコーラを注いだ。

「マモルもいいとこ行ってんだけどやあ」

「はあ? いや、無理だよ」

「まずは成績あげんばよ」

 ユウキはコーラをマモルの前に置いて笑った。

 マモルがぶすりと口を尖らせると、コーラを飲みながら宏一が慰めた。

「優しい先輩も必要やっど」

 宏一は説教を映し出している画面を指差した。

「今日の説教は安永が標的やらい。応えとらんかんしれんどん、帰ってきたら慰めてやれよ」

 寮長の志布井が校庭に並んだ寮生の前を駆けていく。

「ランニング始めます! 蒼空うーっ、ファイト!」

「ファイト!」

 マモルも、他の寮生たちも続く。

「ファイッ!」

 初めて朝のランニングに加わる一年生たちも昨夜の説教が効いたらしく、声を嗄らすようにして張り上げていた。目の前で体を揺らす安永も、他の一年生ほど必死そうではないが、大声で「ファイト」を唱和していた。

2023.07.20(木)