「誰がファイ言えちゅうたよ。早よこっ来!」

「ああっ……」と声を漏らして縮こまった富浦に、マモルは「返事っ」と囁いた。

「はいっ! 行きます」

 答えた富浦は、やっとのことで呼ばれた場所へと駆けていく。富浦が新館二階の一年生の先頭に立つと、他の一年生たちは要領が分かったらしい。残りの一年生たちは自発的に列を作って走り始めた。

 安永も旧館二階の一年生の先頭に立って走っていた。ハーフカットのパンツからスラリと伸びたふくらはぎには筋肉の陰影がはっきりと刻まれている。昨夜の歓迎会ではスケートボードをやっていたという話だったが、こんな筋肉がつくスポーツなのだろうか。

 一際大きな「ファイッ!」の声に振り返ると、ユウキが自分の部屋の一年生の真後ろで大声をあげているところだった。種子島から来た新入生だったはずだ。メガネの下で、大きな目が見開かれているのが見てとれたが、無理もない。ユウキに追い立てられているのだから。

 顔を戻そうとした時に、ユウキの体型が気になった。入寮したばかりの頃は、もっと筋肉の形がはっきりしていたというのに、新入生を追い立てている彼の体はふやけて見える。安永のふくらはぎのようなキレは感じられない。どうやらユウキは、一年の寮生活で体が鈍ってしまったらしい。

 マモルは逆だ。朝の一・六キロメートルのランニングと腕立て伏せのおかげで、中学時代にはなかった筋肉がうっすらと体を覆うようになった。入寮してからの一年は風邪もひかなかった。

 寮生活で体が鈍る者もいれば、健康になる者もいる、ということだ。

 違いは体型だけに限らない。集団生活にどう向き合っているのかでも結果は変わってくるはずだ。

 そんなことを考えつつ、安永と、他の一年生たちに気を遣いながらランニングと腕立て伏せをこなしていると、いつの間にか朝のトレーニングは終わって朝礼が始まっていた。

 まずは部屋ごとの点呼だ。報告は三年生の仕事だが、風紀委員と寮長の部屋だけは二年生が点呼に応えなければならない。

2023.07.20(木)