「返事は!」

 鶏のような声で叱り飛ばしたのは、川内先輩だ。小柄だが、目つきと鹿児島弁の柄の悪さでは誰にも引けを取らない。

「はい――」

「声が小せえ!」

 安永が返答し終えるのを待たずに川内が被せる。

「はいっ!」

「返事は良かど、志布井が何言たか分こちょっとかぁ?」

「え? はい――」

「え、じゃねえ!」川内が再びロッカーを叩く。「お前がよぉ、寮長がどんだけ丁寧に話しとっとかわかっとっとか。それを、え? どげんかしとらせんか? 何黙っちょっとよ!」

「きついの来たな。川内監獄だ」

 宏一が苦笑いすると、ユウキも肩を揺すって笑った。

「ええと」と口ごもる安永にもう一度怒声が飛んだ。

「志布井が『ええと』とか言うたか? お前は聞いとらんかったとか?」

「ごめんなさい!」

「子供か! 申し訳ありませんでしたやろが! やり直せ!」

「申し訳ありませんでした!」

 大声で返答した安永の声に、ユウキが「へえ」と声を漏らした。

「安永、意外と肝が据わってんな。それとも川内先輩が手心しちゅんかい」

「そうでもないよ」とマモルは画面を指差した。「隣の一年――富浦なんか、もう泣きそうにしてるじゃない」

「だからだよ」と宏一。「泣かれると面倒くせえから、太そうな衆をカタに嵌めてんだよ。川内先輩は、ああ見えて相手の反応を結構見てんだ」

 見てりゃいいってもんでもないだろう――と言いかけたマモルは、慌てて「そうか」と補い、自分の変化に気づいた。昨年の自分なら、川内がやってみせる「心遣い」に素直に感心していたはずだ。

 二年生になり、部屋の後輩ができたせいだろうか。マモルは、大声で――しかし落ち着いた顔で川内に答えている安永を見つめて、自分の変化と関係があるかどうかを確かめようとした。

 その時、音もなく戸が開いてナオキが戻ってきた。

「おまたせ。マイクも綺麗に入ってるじゃない。ちょっとごめんね」

 ナオキは両手を耳の後ろにかざすと、スピーカーに顔を向けたまま狭い学習室を一周した。

2023.07.20(木)