新人賞受賞時の選考委員だった「ダディ」が新・直木賞作家へ贈る、厳しくも愛あふれる言葉とは。
北方 今回の直木賞受賞作『しろがねの葉』を読んで、ものすごく小説がうまくなったのを感じました。
千早 ありがとうございます。北方先生は、私がデビューした「小説すばる新人賞」の選考委員で、「小説すばる新人賞」の出身者はみんな、北方先生のことをダディと呼んでいるので、今日もそうお呼びしますね。
北方 最初の印象はもっとかわいい女の子だった。
千早 ちょっと待って(笑)。
北方 プロの作家を前にして、どうしていいか分からないという感じの、初々しい可愛さだよ。『魚神(いおがみ)』(受賞作「魚」を改題)については「これは泉鏡花賞もの」「鏡花賞風」とか言ったら、そのまま泉鏡花文学賞も取ったんだよな。
千早 ちょうど矢野隆さんの『蛇衆』と同時受賞だったんですけど、ダディは我々のことを「ヘビとサカナ」って呼んでましたよね(笑)。授賞式の二次会の時に、「矢野、お前は一年に5冊書け」「千早、お前は2~3冊でいいよ」と。手加減されたと思いました。
北方 矢野は書かなきゃ駄目でしょう。数を書いて、いっぱいの中から傑作が出てくるかもしれないという作家で、想像力のダイナミズムのとっかかりがいっぱいあるから。あなたは想像力のダイナミズムがまだできてないから、数書いたらつぶれちゃうよ。
千早 じゃあ、まだかわいらしい女の子?
北方 変わったのは外見だけ。
千早 ひどい(笑)。
水の冷たさ、闇の怖さといった無限の広さ
北方 ずっと、イメージを大事にして書いてきたでしょう。小説ってイメージの芸術なんですよ。説明の芸術じゃない。それをきちんと分かって書いてるから。今回、うまくなったと感じたのは、いわゆる描写的なところ。描写的とは小説的ということです。その描写の力が明確にあって、それは書き続けている間にどこかで無意識に身についちゃったんじゃないかな。『魚神』にはなかったものが、いっぱいありますよ。
2023.07.04(火)