北方 単行本にする時に、書き直そうと思うのも駄目なんです。連載の時に、最後のところにあらゆるエネルギーを集中して書いていたら、次元が違う小説になった。
千早 体力をもう少しつけたいです。
北方 いや、気力ですよ。普段は持ち上がらないものが、持ち上がるというのは潜在能力。それが途中から出て、最後の二ページで、さらにものすごい飛躍できる。その飛躍が小説の結末だと思うこともあります。ただ説明して終わって、主人公の一生が閉じればそれでいいというものじゃない。あなたの場合は、どこかで最終的に小説のダイナミズムを何か心の中で収束してしまうというのが『魚神』の時からあります。ごめんね。今日はお祝いの対談なのに、期待が大きい分、いろいろと欲張って注文してしまいました。
千早 いえ、今日は問題点を聞こうと思ってきたので、すごくありがたいです。
北方 小説はイメージの芸術だから。『しろがねの葉』はそのイメージをちゃんと書いている。吐いてる血の毒々しさもちゃんと描写で書かれているし、思いがイメージとして存在している。女たちが抱く思いはいつもあてどのないもので、男が次々と死んでいくから、三人ぐらい亭主をもらわなきゃ駄目なんだと言うけど、ちゃんと生きている証を作るやつも居る。それを作者は書こうと思っていて、きちんとできています。だからといって、ものすごい傑作というわけじゃない。改革の余地はいっぱいある。
千早 私は、整合性を考えて作るタイプなので、ウメも、この時代に女であの穴の中に入りたいと思う子というのは、やっぱり、気が強くて、養ってくれる喜兵衛も呼び捨てにするような、したたかな、ふてぶてしい子かなというイメージで作りました。不思議の国のアリスみたいに女の子が自分から穴に入るってどんな性格だろうと考えたんですよね。
北方 それが森の中にある小っちゃな穴倉の闇の中で、そこにかわいい動物が居るとかじゃなくて、銀山の中の間歩でよかったな。間歩の中が地獄だったから、無限の広さが出たんだよ。
2023.07.04(火)