千早 確かに、今までは設計図どおりに書くタイプだったんですけど、今回はどうにもならないところがありました。最初に考えたウメから変化していった。
北方 だからよかったんだよ、千早。小説の人物が、設計図の中で生きてるというのは、生命がない状態なんだ。それが、生命を持っちゃった瞬間に、その人物が感覚や思想とか、いろんなものを持つ。その感覚にしたがえば、作者が思った通りには行ってくれなかったりする。それが小説の中で人が生きるということ。
千早 ちょっとだけつかめた気がしました。
北方 小説って最終的には人を書くから。いろんな事象があったとしても。小説の中では自分が作る人間じゃなくて、できあがってくれる人間だと。そう思っていれば、その人は生きるよ。
千早 「小説すばる」は、いつも授賞式の二次会があるじゃないですか。私が賞の候補に挙がると、必ずダディが反省点とか言ってくれて。『男ともだち』の後に、「お前、もう1回ぐらい俺に作品を読ませろよ」と言ってくれたんですよ。その時、新人賞から出直してこいという意味だと思って、「ごめんなさい」と謝ったら、村山由佳さんが「違うよ。千早、察しが悪いんだから。もう1回、直木賞の候補まで上がってこいということだよ」と笑いながら教えてくれて。
北方 そう。もう1回、直木賞の選考会で読みたいと言ったんだ。
千早 ダディが居なくなった後に気づいて、また頑張らなきゃと思いました。北方先生もですけれど、宮部みゆき先生も私がデビューした時の選考委員でしたから、お二人に本を読んでもらうには直木の候補にならないといけない。だから、今回は本当にうれしかったんです。
北方 いい性格してるな。いい性格してるから、小説を書くんだ。
千早 以前、直木賞の候補作になった『男ともだち』は体の関係のない男女の話なんですけど、「リアリティがない」、「男は下心のない女に優しくしない」という意見が選考委員の方からも読者の方からも上がっていました。
2023.07.04(火)