「小説の言葉」を探せ

 千早 今回で直木賞の選考委員をお辞めになると聞いて、本当にびっくりしています。ダディが選考されている時に受賞がかなってほっともしていますけど。

 北方 俺にとっては直木賞の選考というのはいつも本当につらかったよ。

 千早 どうつらかったんですか?

 北方 自分と違ういろいろな才能と向かい合わなきゃいけない。しかも、若い。俺は圧倒された。負けるとは思わなかったけど、圧倒された。その日々だった。俺が持ってない、あるいは持っていたけどなくしてしまった若さがあるなと思ったら、たまらなかったね。だけど、それを通り過ぎて、選考で刺激を受けることができるようになったんですよ。この選考を23年間やっていたおかげで、自分が鈍磨しなかった。選考するたびに新しい才能と格闘するから、研ぎ澄まされるところがあったんだよ。

 千早 どうして辞めるんですか?

 北方 最後に、長い長編をもう一本書きたいんですよ。選考委員をやりながらでも書けるかもしれない。でも、書けないかもしれない。直木賞って本当に不思議なことに、その選考委員は文壇的な権威じゃないかと思われるんですよ。直木賞は社会的な波及性の大きさゆえに、選考委員が社会的な権威を持っちゃう。俺はそれが嫌。書いてないのにそれにしがみつくのは最悪だと思った。もしかしたら書けないかもしれないから、今やめておこうと。もちろん『チンギス紀』の次の長編は書くつもりだし、その前に、文体を整えるために、「オール讀物」で十五枚の短編も書きます。

 千早 図々しいことを言っていいですか? 私も、今それをやってます。今回の長編を書いて疲れて、文章を練り直したいから、二十枚ぐらいの短編を純文学誌の「すばる」で毎月書いています。

 北方 すごくいいことだと思う。もう一つ言っておくと、二十枚ぐらいと言ったでしょう。そうではなくて、カッチリ20枚。君は手書きじゃないだろうけど、俺の場合は15枚。気持ちとして、15枚目の原稿用紙の最後のマスに丸を書いてから始めるから。

2023.07.04(火)