追記

 2022年5月、野並直文社長は代表権のある会長に、晃専務が第4代社長に就任した。
 就任から三月みつきとたたない同じ年の8月、新進気鋭の社長は苦渋の決断に踏み切る。本文でも詳述している定番の「シウマイ弁当」のシウマイと並ぶ代表的な副菜である「鮪の漬け焼」を「鮭の塩焼き」に、一週間限定で変更したのである。新型コロナウイルス感染拡大による食材供給網の混乱の影響で、原材料の鮪の必要数を確保するのが難しくなったため、いくつかの代替用の魚料理を検討した結果、品質とサイズも踏まえて、税込み860円の売価を変更しないまま鮭の塩焼きと決めた。シウマイ弁当の準主役ともいえる魚料理が変更されるのは、59年ぶりのことであった。社内でも議論を重ねた末の難しい結論だったのだが、崎陽軒ファンは、むしろ色めき立った。そして、神奈川と東京を中心とする直営の約160店、また駅構内などの委託店舗では売り切れが続出する結果となったのである。胸をなでおろす思いであったろうが、気負いはない。
「お金に換えられないブランドを育て、守ることこそ、私たちの役割です」
 2023年2月には、シウマイ弁当のパッケージがプリントされ、食器洗い乾燥機の使用が可能で、ふたを外して電子レンジでも使えるという「シウマイ弁当お弁当箱&お箸セット」を税込み2680円で売り出すや、またも売り切れ店が続出し、さらにはインターネット上で定価を上回る額で転売されるという事態まで見られた。時代と経営環境の変化に柔軟な対応を見せながら、ファンの心理をくすぐりつつ、ビジネスセンスをきらりと光らせている。

2023.05.18(木)