オンリーワンをめざす

 無借金経営への目途がつきつつあった2008年、創業100周年を機に、経営理念を新たに定めた。
《崎陽軒はナショナルブランドをめざしません。真に優れた「ローカルブランド」をめざします》
 最盛期に250億円を超えた年商は、コロナ禍の影響で人の行き交いの少なくなる時期が長引いた2020年度は販売の落ち込みが激しく、30%以上の減少となり、最終赤字に陥ることを避けられなかった。2021年度は、最終的に黒字決算となりそうな見込みであると野並は話した。
「100年先、200年先のことは、むろんわかりません。しかし、大企業にならなくてもいいと思っています。月並みですが、ナンバーワンよりオンリーワンの中小企業でありたい」
 長男で40歳の専務である晃は、父と同じようにJCの活動に熱心で、2021年は、全国を束ねる日本JCの第70代会頭を務めた。父と同様に、育ちのいい笑顔を絶やさない好漢で、白い歯を見せながら、やはり「崎陽軒はナショナルブランドをめざすのではなく、ローカルブランドに徹することが大切だと考えています」と強調する。コロナ禍で渡航を制限されつつも、世界中のJCメンバーたちとSDGs(持続可能な開発目標)について論じ合う。父は息子を穏やかに見守る。
「経営には常に不安が絶えないものです。いまのような時期に日本JC会頭を経験することも息子に何かをもたらすことでしょう。ま、あまり先のことは心配していませんね」
 興味深い秘訣を社長の野並直文が自ら明かした。
 記してきたとおり、崎陽軒のシウマイは一口大である。揺れる車内、機内では、小ぶりであるがゆえ、付属の醤油をかけても、そこにとどまらず、下に流れていってしまう。
「割り箸が付いていますでしょう。その先っちょを、シウマイのてっぺんに少し突き刺して、穴を開けるんです」
 え……。
「その窪みの部分に醤油をたらしまして、さらに付属の辛子をとろっとかける。お試しくださいな。絶妙です」
 くぅー、いますぐ食べたい。

2023.05.18(木)