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 父親の介護と、大きな仕事、子育て、そして恋。人生の一大事がいっぺんにやって来てしまったら? フランスの俊英ミア・ハンセン=ラヴ監督の映画『それでも私は生きていく』は、誰にでも起こり得る事態を描いて、リアリティたっぷりだ。

 2022年末、久々に開催されたフランス映画祭横浜で、記憶と視力を失っていく、主人公の父親を演じたパスカル・グレゴリーと、妻子を持ちながらも主人公と恋に落ちる男を演じたメルヴィル・プポーが来日。フランスで人気、実力共に最高峰にある俳優たちは、話もとても機知に富み、楽しいインタビューとなった。

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――映画が素晴らしかったので、お二人にお会いできて嬉しいです。久しぶりの日本だと思いますので、まずは来日の感想を教えてください。

パスカル 何年か前にフランス映画祭で横浜に来たあと、二度ほどプライベートでも日本には観光に来ているんですよ。毎回日本に来るたびに、とても印象的な国だと感じています。フランスとの文化の違いをはじめ、私にとっては未知の文化の国なので。

メルヴィル 僕はフランス映画祭をはじめ、映画のプロモーションで何度も日本には来ていますが、お会いするジャーナリストの方々は大体いつも同じ顔ぶれですね(笑)。日本でお会いしたり、カンヌでお会いしたり。もう皆さん、顔見知りになりました。皆さん映画に詳しいですし、そして来るたびに日本の観客の皆さんがフランス映画に強い興味を持ってくれていると感じます。

――私もカンヌでメルヴィルさんにお会いしたことがあります。

メルヴィル ほら、やっぱり(笑)。

――この映画は2021年、コロナ禍の中で撮影されたと思います。日本ではコロナ禍での映画の撮影は大変だったのですが、フランスではどんな状況でしたか?

パスカル 撮影はとても長く感じましたね。春と冬のシーンが必要だったので、どうしてもそうならざるを得なかったのですが。そしてコロナ禍で、実際に撮影中に私が新型コロナウイルスに感染してしまい、1週間撮影を休むことになってしまいました。さらに、おそらく私がうつしてしまったであろう人も何人かいて。

 その中にはこの映画の主人公であり、私の娘役のレア・セドゥもいたんです。レアはその時、カンヌ国際映画祭に4本も出演作が出品されていて、カンヌに行く予定だったのに陽性になってしまい、参加できなかったんです。あれは私のせいなんですよ! でも、彼女はとても可愛い人なので、「なんでもないわ」って感じでした。

2023.05.05(金)
文=石津文子