この記事の連載

 舞台『サンソン─ルイ16世の首を刎ねた男─』で、フランス革命期の死刑執行人を演じる、稲垣吾郎。後半は、稲垣さんが『週刊文春WOMAN』で連載中の「談話室稲垣」やラジオ「THE TRAD」でゲストに迎えた小川哲さんとのエピソードなど、小説の話から、死ぬまでにしたいことまで、どんどん話題が広がってーー。


稲垣 そういえばこの間、「談話室稲垣」で作家の小川哲さんとお会いしました。小川さんの直木賞受賞作『地図と拳』に出てくる主人公の一人、細川はちょっと僕みたいにふわふわしてるんですよね。最初は満州での通訳として登場するんだけど、どこか『笑ゥせぇるすまん』的なところがある。もし映画化されるなら、地に足が着いた二枚目が演じるより、ふわふわした人が合っているというか。自分でそれを言うのもなんですが(笑)。

ーー二枚目ですよ、吾郎さんは。

稲垣 いやいや、二枚目とは思ってないですよ(笑)。でも、細川は飄々とした感じがして、もしお話があれば演じてみたいなと思いますね。僕は、いわゆる大河ドラマの主人公のような、日本人の多くが好むタイプの熱い英雄は演じられない。だって、合ってないから(笑)。僕みたいな飄々とした大河の主役はいないですから。

ーーはい、って言っていいのか迷いますが、わかります(笑)。

稲垣 いいんです、いいんです。だからまあ、そういうのは諦めたんですね。熱さ剥き出しな俳優さんの方が需要はあると思うんですけど、僕はそうじゃない。でもサンソンも一種熱い男ではあるんですよ。

ーー熱いけど、その熱さを隠してるような人物ですね。

稲垣 そう。そこは僕にもある部分だと思う。でも泥臭い俳優さんもいいですよね。今回のもう一つの直木賞受賞作、千早茜さんの『しろがねの葉』で言うと、主人公を救う喜兵衛のような男もいい。中年になってくると泥臭さがあるというのはいいですよ。憧れはある。

2023.04.07(金)
文=石津文子
撮影=杉山秀樹
スタイリング=黒澤彰乃
ヘアメイク=金田順子