この記事の連載

 2023年4月14日(金)に開幕する舞台『サンソン─ルイ16世の首を刎ねた男─』で、18世紀フランスに実在した死刑執行人を演じる、稲垣吾郎。

 昨年の主演映画『窓辺にて』では、「これってほぼ吾郎ちゃんでは?」と錯覚するほど、心の波風が立ちにくい男を自然に演じたが(個人的には主演男優賞をあげたいほど)、『サンソン』では激動のフランス革命期にルイ16世、マリー・アントワネットをはじめ、3,000人以上を処刑する宿命を背負った男シャルル=アンリ・サンソンに変身する。

 実はこの舞台、2年前の4月に初演されたのだが、緊急事態宣言によって半分以上の公演が中止となっており、念願の再始動となった。


ーー『サンソン』は、坂本眞一さんの漫画『イノサン』と出会い、その主人公で、王を敬愛しながらもその首を刎ねることになる処刑人サンソンという複雑な人物を演じたい、という吾郎さんの想いから生まれた舞台でした。

稲垣 きっかけは『イノサン』ではあったんですけれども、その後、出典元である『死刑執行人サンソン』という、フランス文学者の安達正勝さんの著書を読んだんです。こちらは細かく史実に基づいて書かれていて、その人物像に感銘を受けたんですね。そして中島かずきさん(劇団⭐︎新感線)に舞台向けの脚本を書いていただいた。サンソンは70歳近くまで生きた人で、その生涯のどこに焦点を当てるかで印象が変わってくると思いますが、僕らの舞台『サンソン』では20代から晩年までを描いています。

 ただ初演は、新型コロナウィルスの影響で緊急事態宣言が出て、途中で中止になり、15回しか演じられなかった。関西公演は完全に中止でしたし。だから演出の白井晃さんは「再演」ではなく「再始動」という言葉を使っているんです。一旦中止にはしたけれど、一度もその火が消えることはなかったし、僕のなかでも完全に電源をオフにはしなかった。だからここに至った流れを本当に嬉しく思ってますね。

ーー初演から2年経って、何か変化はありますか?
 
稲垣 初演のときは、サンソンと彼を取り巻く背景を理解しようとする部分が大きかった。ゼロからみんなで作り上げていくわけですから。いま稽古中なので、これから作品の捉え方なども初演に比べてさらに変化してくるとは思います。特にこの2年で世の中はだいぶ変わった。この2年間に限らないけれど、今の常識が数年経ったら非常識になってしまうことは多い。これは白井さんや、みんなとも話しているんですが、人々の価値観も変わったり、本当に色々なことがあった今こそ、またこの舞台をやる意義があるのかな、と。

2023.04.07(金)
文=石津文子
撮影=杉山秀樹
スタイリング=黒澤彰乃
ヘアメイク=金田順子