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この男を本当に信用していいのか

――ところで『それでも私は生きていく』の中で感じたのは主人公サンドラにとって、パスカルさん演じる父親が人生のある種の絶望を象徴し、一方メルヴィルさんが演じた恋人は希望を与える存在に見えました。しかし、どちらの男性も、彼女に希望と絶望を与えているとも思うのですが、お二人は演じながらどのように感じたり、考えたりしましたか?

メルヴィル 僕の演じたクレマンという役は、白馬に乗った王子様のような、いわば救済者なんです。サンドラは彼との出会いによって人生に意味を見出し、希望を持って、もう一度外に出よう、歩き出そうという気持ちになるわけです。愛と希望、そして夫を亡くしたあとシングルマザーだった彼女は、パートナーがいるという状態を再度経験することになる。

 その一方で、僕の存在にはサスペンスの側面もあります。この男を本当に信用していいのか、いつか捨てられてしまうのではないか、という気持ちに彼女を陥れる存在でもあるんですね。観る方は、レアが演じるサンドラの気持ちに同調すると思います。

――私もこの男を信じていいのか、と少し不安に思いながら観ていました(笑)。同時に、メルヴィルさんご自身が持つ温かみのようなものも感じました。

メルヴィル 僕は、レア・セドゥを抱きしめる幸運を手にしたわけですからね(笑)。とても幸せでしたよ。官能的なシーンもあるわけですが、レアのことは若い頃からよく知っている友人で、そういう関係性があったのでやりやすかったですね。

パスカル 私が演じたゲオルグという人物は、娘のサンドラと強い絆で結ばれていて、とても近しい存在です。子供は親が病気になった時、なんとかしてあげたい、救いになりたいと思って、親に会いに行ったりとか、いろいろな努力をしてくれる。それはポジティブなことではありますが、死が待っているというネガティブな側面も同時に存在しているんですね。

2023.05.05(金)
文=石津文子