この記事の連載
- 『それでも私は生きていく』インタビュー#1
- 『それでも私は生きていく』インタビュー#2
親の病気に向き合う娘
――ゲオルグは認知症ということですが、親に忘れられてしまうのは子供にとっては辛いことですね。
パスカル そう、とても苦しい状況です。ただ、娘のサンドラの立場からすれば、父親が自分のことを完全にわからなくなってしまうことより、その前の段階が一番苦しいのではないでしょうか。父の認知症が進んだ段階だと、もうサンドラはその状況を受け入れ、認めるしかなくなるんですが、少しずつ認知に歪みが生じはじめた時、そこが最も辛い段階なのではないかと思います。
――ゲオルグは非常に稀な種類の認知症ということですが、実際にミア・ハンセン=ラヴ監督のお父さんがかかったわけですね。
パスカル そうです。この神経系の病気は、ベンソン・シンドロームと言われるものです。アルツハイマー型認知症と混同されがちなんですが、一番の違いは、最終的には失明してしまうことなんです。監督は、実際のお父さんとの会話を録音していて、それを私に聞かせてくれました。どのようにお父さんがこの病気の中で言葉を紡ぎ出していたのか、というのが具体的にわかったので、役作りの上で非常に助けられました。
パスカル・グレゴリー
1954年、パリ生まれ。『愛する者よ、列車に乗れ』(98)、『カオスの中で』(00)、『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』(07)で3度セザール賞候補になった名優。エリック・ロメール作品の常連で、『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(93)では主演。また『王妃マルゴ』(94)などパトリス・シェロー作品にも多く出演している。
メルヴィル・プポー
1973年、パリ生まれ。10歳の頃から映画に出演し、『15才の少女』(88)、『愛人』(92)、『おせっかいな天使』(93)、『いちばん美しい年令』(95)など若くして多くの作品に出演。フランソワ・オゾン監督の分身的存在として『ぼくを葬(おく)る』(05)、『私はロランス』(12)、『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(19)などに主演。また、音楽活動もしている。
『それでも私は生きていく』
2023年5月5日(金・祝)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ「未来よ こんにちは」「ベルイマン島にて」
撮影:ドゥニ・ルノワール 編集:マリオン・モニエ 美術:ミラ・プレリ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン
2022年/フランス/112分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Un Beau Matin/英題:One Fine Morning/R15+/日本語字幕:手束紀子
配給:アンプラグド
https://unpfilm.com/soredemo/
2023.05.05(金)
文=石津文子