近年のレア・セドゥといえば、ボンドガールからウェス・アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』、ルイ・ヴィトンのミューズとしての活躍まで、官能的でミステリアスな対象を演じることが多かった。だが、そんなイメージをあっさり傍に置き、ノーメイクに普段着のシングルマザーとして、大胆に生まれ変わったのが新作『それでも私は生きていく』である。本作を観たら、こんなレア・セドゥは見たことがないと驚くにちがいない。
『あの夏の子供たち』(2009)、『ベルイマン島にて』(2021)で知られるフランスの気鋭、ミア・ハンセン=ラヴ監督が、「彼女の誘惑的な面を削ぎ落とし、新しい光を当てたいと思った」と、セドゥを念頭に脚本を書いたという。
認知症の父の看病と、仕事と子育てに追われるなか、偶然旧友のクレマン(メルヴィル・プポー)に出会ったことで、女性としての欲望や愛に再び目覚めるヒロイン、サンドラは、監督自身の体験をモデルにしたもの。そんなある意味、重責を負ったキャラクターに、セドゥはどう挑んだのか。まだ寒さが残るパリのある朝、カジュアルな装いでホテルの一室に現れた彼女が率直に語ってくれた。
「この役にもっとも惹かれた点は、まさしくその飾らない面だった。ノー・メイクでファンシーなドレスもなし。仮面を纏うことなく、映画自体がドキュメンタリーのようにありのままを描こうとしていると感じられた。それにわたし自身、映画や写真などの審美的なアプローチとして作り込まれたものよりも、リアルさを感じられるものの方が好き。
今日、わたしたちはイメージを加工したり、でっち上げたりするソーシャル・メディアの世界に生きている。女優としてはたしかに自分のイメージを管理しようとしているところもあるけれど、完璧に素の状態、たとえば素顔やヌードは美しいと感じる。率直な感情同様に。まったく素の人間は魅力的だと思う」
2023.05.05(金)
文=佐藤久理子