男性の視点による欲望の対象となるような役柄
——ここ最近は『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』(2021)や『レア・セドゥのいつわり』(2021)など、男性の視点による欲望の対象となるような役柄が続きましたね。広告もそうですが、いわゆる自分と懸け離れたイメージだからこそ、割り切って楽しむという感覚なのでしょうか。
「そう、とくに雑誌のグラビアや広告でグラムールなイメージを作りあげるのは楽しい。自分が“女優レア・セドゥ”を演じるのは面白い。でももちろんそこには現実との隔たりがある。ふだんのわたしはすっぴんで、シンプルな生活を送っている。だから一種分裂症的なものだけど(笑)、ユーモアを持ってやっているから軽妙さがある」
——本作のストーリーは監督の実体験をベースにし、サンドラのモデルは監督自身だそうですが、そうした状況をどう感じましたか。
「とても責任を感じた。まったく虚構の役を演じるのと、モデルがいる場合では、演じる感覚は異なる。とくにそのモデルが、カメラの向こうにいる監督ならなおさら。ミアはわたしに細かい要求をせず自由に演じさせてくれたけれど、わたしはすぐにこの役がミア自身なのだと気付いた。自分の気持ちとして、彼女の思いを裏切りたくなかったし、その経験がスクリーンに描き出されていると彼女に感じて欲しかった。
わたしがこの仕事で好きなのは、監督とのコラボレーションにある。監督たちの世界に自分を適応させるというか。だからあらかじめ自分が演じることに関して、あまり先入観を持たないようにしている。わたしが監督に会っていつも最初に尋ねることは、この映画が彼らや彼女たちにとって本当に作りたいものであるのかということ。たんに商業的な理由からではなく。それがわたしにとっては大事なこと。
俳優として監督のヴィジョンに仕えるからには、わたしたちは監督のアイディアを媒介するものとなるわけで、つまりは監督の望むものを体現するわけだから。でもこの映画でわたしはミアを真似しようとは思わなかった。ミアを観察して、自分自身が感じたことを体現しようとした」
2023.05.05(金)
文=佐藤久理子