エリザベス女王が亡くなり、今年9月、イギリスで新国王チャールズ3世がついに即位した。世界中の人々の脳裏をよぎったのは、36歳で悲劇的な死を迎えた彼の元妃ダイアナのことだっただろう。映画『スペンサー ダイアナの決意』は、現王妃カミラとの不倫も噂される中、ダイアナがその後の人生を変える決断をする、31年前のクリスマスの3日間を描いた。主演のクリステン・スチュワートが語る“ダイアナの姿”とは。


なんてクレイジーなアイディア

 本作のオファーが来たとき、「わたしがダイアナ元妃を演じるなんて、なんてクレイジーなアイディアだろう」と、クリステン・スチュワートは驚いたという。たしかに、日頃から率直な物言いと開放的な佇まいで知られるスチュワートと、英国王室の華だったダイアナをすぐに結びつけるのは難しい。だが、そのベクトルこそ異なれど自身の信念を貫くという点で、ふたりには共通点がある。なんといってもダイアナは、もっとも伝統に縛られた王室のなかで前代未聞の選択をした人物だ。

 そしてこの両者の、いわば“ミス・マッチ”を実現させた大胆さに、本作のオリジナリティがある。なぜならここに描かれるダイアナは、いつも笑顔を浮かべていたパブリックイメージとは異なる、傷つき、絶望した生身の人間であるから。

 ダイアナのことが大好きだった母親の影響で、自身も多大な憧憬を寄せていたというパブロ・ラライン監督は、本作の意図をこう説明する。

 「この映画は、ダイアナが本当の自分を見つける物語です。彼女は王室の伝統のなかに入って、自分がそこに当て嵌らない人間であると悟る。それは彼女にとって圧力となり、もちろん王室にとっても問題となる。中世には、王族の女性が殺されたり、首を切られたりすることさえふつうにあった(※)。

 本作のダイアナは与えられた役割を演じながらも、いかに自分として存在するかというアイデンティティの問題で苦しみ、やがて王室を離れる決心をする。それは彼女が自らおとぎ話を壊すということでもあるのです」

2022.11.12(土)
文=佐藤久理子