ハリウッド女優が羨ましく見るヨーロッパ

 ハンセン=ラヴ監督は、「レアはとてもパワフルで型にはまらない色気を持っている」と評するが、おそらくマリオン・コティヤールに続く世代のなかで、欧米を股にかけ、多彩なキャリアを築くことにもっとも成功した例と言えるだろう。彼女自身は時代の変化とともに、フランス女優としてハリウッドの治外法権的な存在であることの特権を自覚しているようだ。

 「同世代のハリウッド女優たちと話をしていると、興行成績やエージェントの力に強く左右されていることが感じられる。彼女たちにとって、ヨーロッパ映画の世界は本当に羨ましく映るものらしい。自分が好きな映画だけをやっていられる状況は、とても恵まれていると感じる。

 それにもちろん、時代の流れもある。女性のイメージは昨今、どんどん変わっているでしょう。この前、息子に絵本を読んでいて、ふと思ったことがある。『プチ・ニコラ』という、フランスでは誰もが知っている、男の子を主人公にした絵本のシリーズだけど、母親はつねにキッチンにいて、話すことと言えば料理とか化粧のことだけ。一方父親は仕事の話ばかり。

 自分が子供のときは、こういう世界が自然だと思っていたけれど、今見ると違和感を覚える。かつての女性のイメージはとても家に閉じこもったもので、それが知らず知らずのうちに子供に影響を与えるのだと思った。

 一方、自分の子供時代を振り返って気付いたのは、わたしの母親はとても独立心の強い自由人で、自分は自由な教育を受けてきたということ。母はわたしに、『あなたは結婚して子供を作りなさい』というようなことを言ったことがない。だからわたしは、自分が男性より劣っていると思ったことはないし、男性と女性の社会的な地位などについてずっと無頓着だった。

 でもそれは時代のおかげ。母の時代はもっと大変で、自由に生きるのは茨の道だったはずだから。もちろん、今だって本当に平等とは言えないし、それはこれからも変わり続けなくてはいけないと思う」

2023.05.05(金)
文=佐藤久理子