2022年のカンヌ国際映画祭で、前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)から連続して2度目の最高賞(パルムドール)を手にするという、快挙を成し遂げたスウェーデンの鬼才、リューベン・オストルンド監督。その新作『逆転のトライアングル』は、思わぬアクシデントによって社会的地位や人間関係がかき乱される、彼特有の批評眼に満ちたものだ。

カンヌの会場内は引きつった笑いに包まれた

 モデルのカール(ハリス・ディキンソン)と、彼より稼ぎのいい売れっ子モデルでインフルエンサーのヤヤ(チャールビ・ディーン。※本作撮影後、32歳の若さで病死した)が、無料で招待された豪華客船のクルーズに参加する。だが嵐に見舞われ、フルコースのディナーは船酔いの人々の嘔吐に変わり、あげくの果てには船が難破。命からがら孤島に流れつくものの、そこでは客と使用人の立場が逆転し、大富豪たちは生き残るために、使用人に媚びへつらうことになる。皮肉の効いたユーモアの連発に、カンヌの会場内は引きつった笑いに包まれた。

 飄々とした風体で取材を受けてくれたオストルンド監督は、長編6作目にあたる本作のアイディアの発端について、ファッション・フォトグラファーである妻の影響だったと語る。

「彼女と出会って、僕はファッション界の内幕にとても興味をそそられた。たとえばファッション業界では男性モデルは女性モデルよりも稼ぎが少ない。男たちは“メール・モデル”と呼ばれる。女性が“フィメール・モデル”と呼ばれることはないのに。そこでは、他の世界と違ってジェンダーのヒエラルキーが逆だ。そこが面白い。それに権力を持つ男たちが、彼女たちと付き合いたがる。彼女たちにとっては、セクシュアリティがキャリアのドアを開けるチケットにもなるわけだ。そういう観点から、美を“通貨”として捉えるアイディアが湧いた」

2023.02.23(木)
文=佐藤久理子