金持ちに敵意があるわけじゃない
「ただ断っておきたいのは、僕は金持ちに敵意があるわけじゃないし、彼らがひどい人たちばかりだとも思っていないということ。前作を作ったあと、多くの裕福な投資家に出会ったけれど、良心的な人々がたくさんいた。自分の見方は、リッチな人々は貧しい人々と同様に、ナイスでもあり意地悪でもあるというもの。金持ちが表層的でエゴイスティックというのは、短絡的な見方だ。
左翼の人々はよく、貧しい人々は良心的で金持ちはエゴイストと言うけれど、僕はそういう二元論を避けたい。と同時に、誰もがこの世界にいる限り、無実ではいられないとも思う。僕はこういう映画を作りながら、僕自身を批判している。なぜなら僕もこの世界の一員だから」
島でサバイバルを繰り広げる人々が迎えるラストの展開に、観客は笑いと震撼を同時に経験させられるだろう。彼の作品にはつねに、人々の先入観を揺さぶる大胆さと挑発がある。
自身の映画にタブーはあるか、と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「おそらくタブーかどうかということよりも、描くことに価値があるか否かの方が、僕にとっては重要だ。たとえばある種の話題は取り上げること自体が退屈だったり、あるいは人々を無意味に失望させたりしがちだ。それは取り上げる必要がないと思う。挑発するのが簡単なことであるなら、それはあまりいい話題だとは思えない。逆に挑発するのが難しい場合、それはいい話題と言える。後々まで議論が続くことになるから」
そんな彼は、すでに次回作の構想があるとニンマリしながら打ち明けてくれた。
「いま考えているのは、『エンターテインメント・システム・イズ・ダウン』というタイトル。長距離のフライトで、スクリーンが作動しなくなるんだ。現代人が突然娯楽を奪われたとき、どうなるかと考えてね。それは僕らがもっとも恐れることのひとつだろう。まあこれも子供っぽいユーモアなのかもしれないが(笑)」
48歳の鬼才は、今後も我々の既成概念を揺るがし続けるに違いない。
2023.02.23(木)
文=佐藤久理子